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サーーー
体に風が当たる感覚がする。
心なしかいつも感じている風とは違う気がする。
気持ちいい風を浴びることで、意識がハッキリしてくることを感じ目を開ける。
「ここは…」
俺は草原に立っていた。
俺が立っていた場所の横には、もう日本の道路ではほとんど見ることがなくなった整備されていない土の道があり、その先を辿ると小さな町らしきものが見える。
背後には森があり、一体自分自身に何が起こったのか全く理解できなかった。
「俺は一体?」
訳も分からず俺は掌を見ると、俺の恰好は見覚えのない服を着ていることに気が付いた。
俺の恰好は、黒い革製ジャケットとズボン、黒いフィンガーレスグローブ、黒い靴と黒づくめだ。
あとは右の腰に四角いポーチに、平たい布同士を合わせて作ったような口が開いた袋が左後ろの腰に付いている。
「黒は好きだが、やりすぎじゃないか?」
苦笑いしながら、嘆く俺は意外と余裕があるのかもしれない。
ポケットに携帯が入ってないかと探ってみるが入っておらず、ポーチや袋を見ても結果は同じだった。
ただ、袋に何も入っていないのは同様だったがポーチの中は10に区切られ、それぞれの場所に試験管が入っていた。中身が入っているのは3本のみで、赤、青、黄色と非常に怪しい色をしている。
「とてもではないが、中身を確かめてみる気にはなれないな。
……う~ん、これは俺が貰っても良いのか?」
俺が言っているのは、足元に落ちている布袋のことだ。
起きた時から足元にあったのは気が付いていたが、なんとなく後回しにしてしまっていた。
俺が貰っても構わないだろうと結論をつけ、袋を開ける。
「数着の下着とTシャツなのか?えらくゴワゴワしてるな。
あとは、短剣に小さい袋だけか…。短剣なんて持ってて大丈夫なのか?」
だが捨てるのも忍びなくて、布袋に戻してしまう。
小さい袋は意外に重量があり、中からジャラジャラとどこか聞いたことがある音が聞こえる。
開けると、中から出てきたのは予想していたのとは少し違った。
「これは銀貨か?どこの国の貨幣だ?穴が開いてあるのとないのがあるのは何故だ?
見たことがない貨幣だ。正直、貨幣の価値すら分からん。」
数えてみると、穴が開いていない銀貨が2枚に開いている銀貨が5枚だった。
それらをもう一度布袋にしまい、布袋を肩にかける。
「さて、町が見えるのに森に入るほど天邪鬼じゃないからな。
あの町でここが何処かくらい分かれば良いんだがな」
俺は、町がある方へ足を進める。
そうして俺は、知らず知らずのうちに異世界[フィリアス]での第一歩を踏む出すことになった。