8-15
「鍬土くん。もし良かったら、お母さんの治療を僕のお父さんに任せてみないかい?」
「天樹、どういうことだ?」
「実はお父さんと製薬会社が共同で開発していて認可を申請している新薬があるんだ。お母さんの病院代は全て製薬会社とお父さんの病院で負担するから心配しなくてもいいよ」
「し、しかし太郎と花子が……」
他に親戚は無く、幼い弟妹では生活することなど出来ない。
しかし、学校の寮に住んでいる鍬土では弟妹を引き取ることも無理。
「病院には家族も過ごせる個室があるんだ。手続きは僕の両親がするから大丈夫だよ」
「で、でも、太郎と花子の食費とか、ワイでは払えない……」
「鍬土くんが就職したら少しずつ返済すればいいよ。病院の支払相談室に伝えておくから」
トモの父親が経営する天樹総合病院には、一般の病室の他に、家族も寝泊りできる病室がある。
天樹総合病院は貧しい人でも最高の治療を受けられるように、スタッフが医療費の相談に乗っている。
日中は病院近くの小学校に通い、夜は母親と過ごす。食事も用意されるので、母親も幼い弟妹も安心できるはず。
トモはそこまで考えて、鍬土に母親の入院を勧めたのだ。
鍬土はトモの優しさに触れ、トモを一方的に見ていた自分を恥じた。
「天樹、スマン。ワイは君を金持ちで苦労知らずだと見ていた」
「僕が君の立場でもきっとそう思うよ。気にしないで」
「天樹くん、ワイは君のような優しくて心の大きい人間になる!」
「鍬土くん……」
トモと鍬土は固く握手をして、お互いの健闘を称え合う。そんな2人を様子を見ていた天堂先生がそっと近寄った。
「鍬土くん、よく頑張りました。素晴らしい試合でした」
「天堂先生、ワイ……」
「来年こそ生徒会長になれるように頑張りましょう。お母さんやご弟妹のために」
「はい、来年に向けて今日から頑張ります」
鍬土はそう言うと、天堂先生に頭を下げた。そしてバトルスペースから下りると、制服に着替えるために更衣室へ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「トモ、おめでとう!」
「ありがとうミクちゃん」
バトルスペースから下りたトモは、ミクから祝福を受けた。
「ユウから伝言で『なんとか勝てたな』だって。偉そうだよね~」
「でも、ユウの言うとおりなんとか勝てて良かった。次はユウの番だね」
ミクから俺の伝言を聞いたトモは苦笑いを浮かべた。
トモの勝利が確定した瞬間、俺は試合に出るため、先生に呼ばれて防具マスク着用と身体検査に向かったのだ。
「それでは、男子準決勝、第2試合、白、2年A組、斉木千里。青、1年D組、三上有利。前へ」
「あっ、ユウが呼ばれたわね」
「ユウー!頑張れよー!!」
バトルスペースに上がる俺の姿を見たトモとミクが、大きな声で応援する。
その声を聞きながら、青のバトルスペースに立った俺は、白のバトルスペースに立つ斉木と向かい合う。
「観客は静粛に!両者、礼!」
大柳校長の声で頭を下げ、礼をする。そして顔を上げると、斉木がクククと、笑っていた。
「悪い、俺は人の気持ちや心理を読むことができるんだ」
『はぁ、コイツ、何、言っているんだ!?』
昨日と道中に続き、俺は変態としか戦えないのか!?もしかして俺も変態だと思われているのか?
おかしい……俺はロリコンだが、変態ではないはず。
「今、お前は『はぁ、コイツ、何、言っているんだ!?』って思ったな?」
『当たっている!?』
俺は斉木の言葉に驚くが、斉木の方は当然といった態度をしている。
「フハハ、『当たっている』と思ったな!俺には全て読めるんだ」
「ふざけるな!俺はそんなもの信じないぜ!」
俺はそう言うと、マスク越しに斉木を睨む。心理なんかで負けてたまるか!
大柳校長の右手が上がり、俺と斉木の戦いが始まる。
「両者セット!……RPS GO!」
俺と斉木の右手が素早く体の前に出る!
俺の出した手はパー、斉木の出した手はチョキ。斉木の攻撃権だ!
白、斉木の電光掲示板に「Attack」と点灯されると、斉木の左手が俺の胸元に飛んでくる。
「覚悟!」
「そう簡単にやられてたまるか!」
俺の左手が斉木の左手を叩き落とした。
白、斉木の電光掲示板の「Attack」が消え、青、俺の電光掲示板に「Defense」と点灯されると、大柳校長の声が体育館に響いた。