8-14
「生まれつき金持ちで苦労知らずのお坊ちゃまにワイは負けるわけにいかない!」
鍬土はトモをマスク越しに睨む。トモは無言でそれを受け止める。
2人の間に見えない火花が飛んだ時、大柳校長の右手が上がった。
「両者セット!……RPS GO!」
「太郎、花子、兄ちゃんは頑張るからな!」
トモと、鍬土の右手が素早く前に伸びる。
トモの出した手、パー。鍬土の出した手、グー。白、トモの攻撃権。
白、トモの電光掲示板に「Attack」と点灯されるより前に、トモの左手が素早く前に出る!
「ワイは天樹くんの攻撃など見切っておる!」
眉間に飛んできたトモの左手を素早く払いのけた鍬土。
「うそっ、トモの攻撃が!?」「うわっマジか!?」
その光景を見た俺とミクは思わず声を上げてしまった。
トモの素早い攻撃を、鍬土はいとも簡単に受け止めていたからだ。
なぜ、鍬土がトモの攻撃を受け止めることが出来たのか。
鍬土は貧しい家計を助ける為、学校が休みの日は漁に出て、魚を捕っていた。
海の中を素早く逃げる魚を見ているうちに、動体視力が人より発達したのだ。
「ワイは簡単には負けん!」
鍬土の熱い意気込みが試合を見ている全員に伝わり、観客は息を呑んで試合を見守る。
白、トモの電光掲示板に表示された「Attack」の文字が消え、青、鍬土の電光掲示板に「Defense」と点灯された。
そして、大柳校長の右手が上に上がった。
「デフェンス、リプレイ」
その声に、トモと鍬土は体勢を整えると、再び大柳校長のコールが響いた。
「両者セット!……RPS GO!」
「デフェンス、リプレイ!」
「また、防御されたわ!」「これで10回目だぞ!」
ジャンケンではトモが勝つが、鍬土が防御をする為、なかなか勝負がつかない。
「ハァハァ……天樹くん、君はお金でも、立派な家でも何でも持っているだろ?なんでこんな勝負に拘るんだ!?」
「鍬土くん、僕は拘りで勝負しているわけじゃない」
それまで聞き流していた鍬土の言葉に、トモが始めて反応した。
そして大柳校長の右手が上がり、合図が出された。
「両者セット!」
「僕は、僕自身の為に、このバトルに参加したんだ!」
「天樹くん!?」
「……RPS GO!」
トモの出した手、グー。鍬土の出した手、チョキ。トモの攻撃権!
その時既に、トモの左手が鍬土の体を捉えていた。
「ウワァァァッ!」
「しまった、防御が――!」
大きな機械音と、白、トモの電光掲示板に光る「Hit!!!」の文字。
トモの左手は鍬土の右胸に当たっていた。そのままの姿勢のまましばらく動けない2人。
やがて、主審の大柳校長の右手が上がった。
「勝者、天樹友助!決勝戦進出です!」
「やったわ!トモが勝った」「トモ、やったな!」
トモと鍬土の試合を見ていた俺とミクは大きな声を出してトモの勝利を喜んだ。
トモも鍬土もA組なので、トモの防具マスクは塩花教頭が、鍬土の防具マスクは天堂先生が外した。
天堂先生が鍬土に声を掛けようとしたが、鍬土は床に座りこんでしまう。
「ワイは負けちまった……太郎、花子、楽させてやれんでゴメン!」
交通費が無いため、会場に来ることが出来なかった家族を思う鍬土の目から流れる涙。
その鍬土の側にトモはそっと近寄ると自分の右手を差し出しながら、声を掛けた。