8-13
「何これ?めちゃくちゃ美味しい」
「マジうめぇ、生きてて良かったぁ」
「うん、こんな豚饅食べたことがないや」
選手控え席に座りながらイベリコ豚饅を食べる俺達。トリュフのほのかな香りと、ピザ風味の具材がめちゃくちゃ美味しい!
「そういえばなんでユウはイベリコ豚饅の発売が今日だって知っていたの?」
「あー実は先日、売店のおばちゃんが車から弁当を出す時雨だったんだ。だから荷物を持つのを手伝ったら、お礼だってこっそり教えてくれたんだ」
ミクの質問に対して、俺はちょっと得意そうに答えた。
「フーン、たまにはユウも良いことをするのね」
「おいコラ、思いっきり俺に失礼だぞミク」
「ハハハ、でも貴重なイベリコ豚饅が食べられて良かったよ」
俺達がイベリコ豚饅の話題で盛り上がっていると、体育館の中に放送が流れた。
「まもなく、男子準決勝が始まります――」
「試合に出場する天樹と鍬土は防具マスクを着けるので、宮元先生と高峰先生のところへ行きなさい」
「じゃあ、僕、防具マスクと身体検査があるから、スタンバイしているね」
「トモ、頑張ってね」「勝てよ、トモ」
「ミクちゃん、ユウ、ありがとう。頑張るね!」
呼びに来た長岡先生の声に、トモはスッと席を立つ。そして俺とミクの声援に答えた後、防具マスクを着けに宮元先生のところへ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「男子準決勝、第1試合、白、1年A組天樹友助。青1年A組鍬土関平。前へ」
「「はいっ」」
主審の大柳校長の声でトモと鍬土がバトルスペースに上がる。
観客席からは2人を応援する歓声が飛び交う。
2人が定位置についたところで、主審の大柳校長がゆっくりと右手を上げた。
「観客は静粛に!両者、礼!」
「天樹くん!ワイは君には負けん!」
「鍬土くん……」
顔を上げて直ぐの鍬土の宣戦布告。その気迫に押されそうになるトモ。
鍬土がこの幸命高校を選び、生徒会長を目指す深い訳、それは鍬土の辛い経験からきていた――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「父ちゃんー!」「関平、諦めれー!」
田舎の漁村で生まれた鍬土は小5の頃に父親を漁で亡くしてしまう。
まだ幼い弟の太郎と、妹の花子がいるので母親が朝から晩まで働き、鍬土が弟妹の面倒を見てきた。
しかし、過労から母親が倒れ、一家は益々貧乏になってしまう。
「母ちゃん、お腹空いたよぉ」「甘いもの食べたいよ、エーン」
「太郎、花子、お母さんがこんなんでゴメンね」
幼い弟妹は空腹が辛くて家では泣いてばかり。また、その姿を見て病床の母も泣く。
『なして、ワイの家ばかりこんな貧乏だっけ!』
鍬土は行き場のない怒りをどこにもぶつけることが出来なかった。
しかし、勉強の出来た鍬土は幸命高校に「特待生」として入学できた。
幸命高校は学校の近くに寮があり、鍬土の寮費、学費は免除されている。
成績さえ落とさなければ、鍬土は十分な高校生活を送ることができる。しかし――。
『ワイは生徒会長になって、太郎と花子に楽をさせる!』
実は『RPS BATTLE』を勝ち抜き生徒会役員になると、その運と将来性を買われ、企業がスポンサーについてくれる。
企業スポンサーは、生徒が自分の会社に就職する見返りとして、大学の学費などを提供してくれるのだ。
『いい大学ば行って、いい企業に就職できれば母ちゃんの治療をしてやれる!』
冬でもほとんど暖房のない寒い家での暮らし。魚が獲れないと、米しか食べられない夕食。
太郎と花子の遠足の時は、近所に頭を下げて食材をもらう惨めとしか言えない生活。
そんな鍬土が入学して同じクラスになったトモは代々続く大病院の一人息子。
成績優秀でスマートな容姿。オーダーメイドやハンドメイドの鞄や制服をさりげなく着て登校するトモに鍬土は嫉妬した。