8-12
「両者セット!……RPS GO!」
………………
…………
「デフェンス。両者リプレイ」
ミクと横関の攻防は何回も繰り返される。ミクが肩で息をしているのが、俺やトモも目からも明らかだ。
「うーん、ミクちゃん、体力大丈夫かなぁ?」
「あぁ、確かにヤバイな」
いつもより長い時間戦っているミクの体を心配するトモ。しかも相手は、どすこい横関。恐らく体力は限界に近いはず――何とか流れを変えてやりたいな……あっ、そうだ!
「おい、トモ。お前お金あるか?」
「あ、あるけど、どうしたの?」
「悪い、ちょっと貸してくれ……あっ、先生、俺ちょっと漏れそうなんです~」
「あっ、ユウ?……お金持って、漏れそう?」
俺が体育館から慌てて出る姿を、トモは不思議そうに眺めていた。
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「両者セット!……RPS GO!」
………………
…………
「デフェンス。両者リプレイ」
「ハァハァ……ハァハァ……」
なかなか終わらない横関との戦いで、ミクは激しく体力を消耗している。
対して横関の方はいまだに立ち位置が動かず、どっしりとしている。
「どうしよう、こんなとこで負けたくない!でももう、リタイアした方がいいのかな――」
息も上がり疲れが出てきたミクは負けることへの焦りが出て来る。
しかし、体力の低下で既に立つのがやっとの状態まで追い込まれていた。
「おーいミク、トモ(のお金)から数量限定『イベリコ豚饅』の差し入れだぞ!」
俺は左手に持った紙袋を高々と上げてミクにアピールした。
「えっ?トモが私の為に、貴重なイベリコ豚饅を!?」
勝負を諦めかけていたミクだが、トモからの差し入れと聞いて心が舞い上がった。
イベリコ豚饅とは、この幸命高校出身の三ツ星シェフが月に一度、5個だけ売りに来るもの。
見た目は普通の中華饅頭に見えるが、中身の具は超高級イベリコ豚ベジョータ挽肉をトマトソースで煮込んだ具がたっぷり。しかも饅頭の生地には細かく刻んだトリュフが練りこんである。これで1個千円。
この豚饅は非常に人気が高い為、販売日が秘密なので運のいいヤツしか手に入らない。
紙袋の中の饅頭はまだほかほかで、トマトソースの香りが体育館に広がる。んー、この香り、たまんねー。
そう俺は、トモから借りたお金で肉饅を3個買ったのだ。先生にトイレに行くと嘘を言ってな。
「ユウ、よく今日が販売日だって知っていたね!」
「おう、まだ2個残っていたぞ!」
いまだにイベリコ豚饅を食べたことが無いトモが、驚きの声を上げる。
俺は興奮したトモの様子が可笑しくて、得意そうに話す。その時――。
「エリミネート、横関、レッドカード……横関、どこへ行く!」
「私、生徒会長になることよりイベリコ豚饅のほうが大事なんです!買いに行ってきます!」
大柳校長の焦る声など気にせず、ベリッと剥がすようにむりやり防具マスクを外した横関は、どすこいとは思えぬ走りで体育館から出て行った。
その姿を大柳校長もミクも、体育館にいたほとんどの人が、呆然と見ていた。
「……横関試合放棄、よって勝者、時実未来。決勝戦進出です!」
横関がいないので、横関の担任、小林先生と試合終了の礼を交わしたミク。
いつもならここで大歓声なんだが、横関の試合放棄なので、今一盛り上がらない。当然か。
そのままの流れで、男子の準決勝に移る前の休憩時間になった。