8-10
――数分後。
大きな機械音とともに、白、西郷の電光掲示板に「Hit!!!」と表示がされた。
「ヒット、攻撃成功!勝者、白、西郷刹那、決勝戦進出です!」
「「やったー!」」「「おめでとー」」「「勝ったー!」」
大柳校長の高い声が体育館に響き渡った瞬間、観客席からも大きな歓声が沸く。
その時、西郷の担任、天堂先生と、前下の担任、成瀬先生がバトルスペースに上がり、それぞれ2人の側に行くと防具マスクを外した後、声を掛けたり、握手をしている。
西郷は笑顔で先生と握手を交わし、前下は泣きながら成瀬先生と握手を交わしていた。
「それでは試合終了、両者、礼!」
「「ありがとうございます!」」
大柳校長の声で、西郷と前下は礼をすると、バトルスペースから下りていく。負けた前下は防具服を着替える為、更衣室へ向かった。
「西郷さん、おめでとう」「頑張ったな西郷さん」
「天樹くん、鍬土くん、ありがとう!決勝戦も頑張るわ!」
選手控え席に戻った西郷に、同じクラスのトモと鍬土が祝福の声を掛けると、西郷は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
こうやって普通にしていると、西郷もミクと変わらないくらい可愛いんだけどな。
ちなみにミクは西郷の勝利が決まった途端、防具マスクを着けるのと、最後の身体検査を受ける為に、宮元先生と高峰先生のとこへ向かった。
「あーん、もう、どうして準決勝で天樹くんと鍬土くんが戦うんだろう~。ついていないわね」
「ハハ、こればっかりは仕方ないよ。ね、鍬土くん」
「あぁ、男子生徒会長になれるのは1人ばい。どっちかが決勝で頑張るだけばい」
軽く体を捻りながらトモや鍬土と甘えるように会話をする西郷。
やっぱりミクがここに居なくて正解だ。
「私が女子生徒会長になって、天樹君か鍬土くんが男子生徒会長になれば、きっと天堂先生も喜ぶわ」
「そうだね、きっと先生なら喜ぶよ」
「ううん、絶対になるの。そして、虫けらは排除しなくちゃっ」
そう言うと、西郷は視線を俺のほうに走らせた。
カッチーン! 虫けらって俺のことかよっ!
前言撤回、やっぱこの女、マジ、ムカツクゥ!
コイツが女子生徒会長になったら、俺の高校生活灰色になるぜ。それだけは何としても避けたい。
ここはひとつ、ミクに頑張ってもらわないと!
「ぬおぉぉぉッ、トモ、来てくれ、俺の腹がっ!」
「どうしたのユウ!?」
「あ、天樹くん!?」
俺は自分のお腹を抑えながらトモを呼ぶと、トモは俺の側にすぐ来てくれた。フフーン、西郷見ろ、これが俺とトモの絆さ。
「ユウ、お腹がどうしたの?」
「トモ……背中さすってくれないか?」
「こ、こう?」
俺の訴えを疑うことなく信じ、背中を優しく擦るトモ。またトモを騙して悪いが、ミクの為……いや、俺の為だ!
「そうそう、その調子……ゲフッ……」
「ユウ、大きなゲップが出たね」
「あーっ、汚い音を聞かせて悪かったな。トモのおかげですっきりしたわ」
そう、俺の胃にはさっき飲んだコーラの炭酸が残っていたんだ。
トモに背中を擦ってもらうことで、大きなゲップとして出すことができた。まっ、ワザとなんだが。
「ユウも、緊張したら胃にくるんだね。胃薬あるけど飲む?」
「もうすっきりしたぜ。ありがとな。それより、ミクの試合が始まるからここで見ようぜ!」
「うん……具合が悪くなったらすぐに言ってね」
トモは俺の仮病を、今日の試合からくるストレスだと思ったらしい。なんて優しいヤツ。
俺が西郷からトモを引き離すことに成功した時、防具マスクを着けたミクがバトルスペース下で出番を待っていた。