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「勝者、青、三上有利、準決勝進出です!」
「「おめでとー!!」」「「やったな!」」
高木先生の声が体育館に響き渡った瞬間、観客席の生徒達から歓声が沸いた。
そんな中、道中が同じ姿勢で立ったままなので、俺は彼に話しかける。ここまで来て負けるのは誰でもショックなはず。
「おい、道中、大丈夫か!?」
「あ……三上くん」
俺が声を掛けると、道中はゆっくりと俺の方を向いた。
「この僕が、防御することを忘れるくらい……三上くん、君の華麗な攻撃に見惚れたよ」
「あぁ……そう、そうか。ありがとうな」
すると道中は、俺の左手を両手でしっかりと握ったまま、うっとりと話を続けた。
「僕より美しい攻撃をする三上くん。その素敵な拳で生徒会長になるんだ」
「エッ!?」
俺はその手を振り解きたいが、ガッチリと握られていて離れない。
『待ってぇ、マジで気持ち悪い~、誰か助けてくれぇ』
「試合終了、両者、礼!道中、手を離しなさい!」
「先生、僕にこの素晴らしい拳から手を離せと言うのですか?」
「お前、いい加減に手を離せ!マジ殺すぞ!!」
「三上くんの腕の中から、僕は死んでもいいよ」
俺の手を離さない道中に高木先生が注意をしたが、全く聞き入れない。
さすがの俺もキレて道中に怒鳴るが、道中はうっとりしたままだ。俺の全身に鳥肌が立つ。
あまりの気持ち悪さに眩暈と貧血がいっぺんに起きそうになった時、俺と道中の間が少し暗くなった。
そして誰かが道中の手首を掴み、俺の手から指を解いた。
「あ、やっと手が離れた!」
「僕の邪魔をしないで!」
「おい、道中いい加減にしろ!」
俺の左手が自由に動けた時、俺と道中の間に鈴木先生が立っていた。
鈴木先生は道中と向かい合うと、道中の両肩をがっちり掴んだ。
「お前が三上に憧れる気持ちは分かる!だがな、その気持ちは来年の『PRS BATTLE』にぶつけるんだ!」
「鈴木先生、僕……」
「来年また頑張って、今度は三上から認められるようになれ、分かったな」
鈴木先生の言葉に納得したのか、道中はガックリと頷くとそのままバトルスペースを下りていった。
「鈴木先生、助かったぜぇ!」
「あー、まあ、準決勝にお前と時実が残ったからな。変なのに邪魔されずに頑張って欲しかったんだ」
俺がお礼を言うと、鈴木先生は少し照れたような顔をした後、バトルスペースから下りた。
鈴木先生、俺、あんたが担任で良かったぜ!
皺のついたスーツを着ている鈴木先生の後姿を俺はいつまでも見送っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「予定より40分ほど長くなりましたが、これにて『PRS BATTLE全体選抜』の予選を終了します。……」
特設のバトルスペースの上で、十文字女子生徒会長が司会を務めている。
トモと足利の試合であいこが続いた為、体育館にある時計は午後1時近くを指していた。
「……それでは明日の準決勝、決勝に出場する生徒は前に並んでください」
その声で、今日勝ち抜いた俺達は再びバトルスペースに上がり、横並びで整列した。
同時にステージ側の大型スクリーンには明日の準決勝に出場する生徒の名前と、今日の試合のダイジェスト映像が流れた。
【女子準決勝進出者】
1年A組 西郷刹那
1年D組 時実未来
2年A組 横関歩美
2年B組 前下姫芽
【男子準決勝進出者】
1年A組 天樹友助
1年A組 鍬土関平
1年D組 三上有利
2年A組 斉木千里
………………
…………
「準決勝に進出する8名です。いよいよ明日、来年度の生徒会長が決定します。皆さん、彼らに暖かい拍手をお願いします!」
「「頑張れよー!!」」「「負けるなー」」
観客席から、暖かい声援と拍手が沸きあがり、俺は心から感動した。
こうして俺達の最終決戦はいよいよ明日となった。