8-7
「第4試合、白、1年B組、道中孝明。青、1年D組、三上有利。前へ」
「「行けーー!」」「「負けんなー!」「「頑張ってー!!」」
カンカンカン……と、バトルスペースへ上がる簡易の階段を上ると、スポットライトのような眩しい光と、沢山の声援が俺に届く。
「観客は静粛に!両者、礼!」
高木先生の合図で頭を下げ、再び頭を上げると、白のバトルブースからクククッと笑い声がした。
「フフッ、三上くん。君と拳を……体を合わせることができてとっても嬉しいよ」
「ハァッ?」
「気にしなくていいよ。正々堂々と頑張ろうね」
道中は自分の口辺りに右手を当てながら話す。ってか、コイツの言っていること意味不明。しかも……。
『なんだぁ~コイツ。小指を立てながら話しやがって』
今まで出会ったことのない超ねっとりとした話し方をする道中に、俺の体に嫌悪感が走る。
そんな雰囲気の中、高木先生がゆっくりと右手を上げ、合図を出す。
「両者セット!……RPS GO!」
『どうでもいいけど、さっさと片付けてやる!』
俺と道中の右手が前に出る。
俺の出した手、チョキ。道中はグー。攻撃権は道中だ。
白、道中の電光掲示板に「Attack」と点灯された。
「そこだ!」
道中の左手が俺の顔面に飛んでくるが、俺の左手は素早く道中の左手を払っていた。
道中の電光掲示板に表示された「Attack」の文字が消え、俺の電光掲示板に「Defense」と点灯される。
体勢を直そうとした時、道中の上擦った声が聞こえた。
「う、美しい、なんて美しい防御なんだ」
『はぁっ!?』
「ずっと観ていたんだよ。華麗な時実さんの防御、天樹くんの計算された動き。2人とも綺麗な攻撃をするよね。……でも、全ての情熱を拳に込めた三上くんの攻撃はそれよりずっと美しいんだ。自分で気づかなかった?」
うっとりとした顔でねっとりと俺の攻撃について話す道中。
『……うわあ、マジで気持ち悪いぜぇ』
そんな俺の気持ちを余所に、俺達の体勢を確認した高木先生の右手が上がる。
「デフェンス。両者リプレイ」
「でも、僕はね……」
「両者セット!……RPS GO!」
「そんな美しいものを壊すのも好きなんだぁぁぁ!!!」
道中は高木先生の声に被さるように興奮した声を出しながら右手を伸ばした。
俺の出した手、グー。道中の出した手、パー。攻撃権はまたも道中!
再び白、道中の電光掲示板に「Attack」と点灯された。
「僕にっ、や・ら・れ・な!」
『やられてたまるかよ!』
俺の鳩尾に飛んできた道中の拳を上から払う。
また、道中の電光掲示板に表示された「Attack」の文字が消え、俺の電光掲示板に「Defense」と点灯される。
「鳥の羽ばたきのような左手の動き。素敵だ……なんて素敵なんだ、三上くん。だけど、僕も負けないよ……ククッ」
『もう、俺、こんなヤツと試合したくねぇ~』
防具マスクをつけているので、表情は分からないが、うっとり、ねっとりした声で話す道中に、俺は不快感しか出てこない。
「デフェンス。両者リプレイ」
再び、高木先生の声が体育館の中に響く。
「両者セット……RPS GO!」
その声で、俺の出した手はチョキ。道中の出した手はパー。俺の攻撃権だぁぁ!!
ようやく俺の電光掲示板に点灯される「Attack」の文字。
『これでぇ、終わりだぁぁっ』
「――う、美しすぎる……」
道中の動きが止まり、俺の左手は道中の腹部に当たった。
俺の電光掲示板に「Hit!!!」と表示がされ、勝ちが確定した。