8-5
「すごいよ、1回目で勝つの初めてだよね?」
「きっと明日は猛吹雪でJR運休――イテッ」
休憩に入り、防具マスクを外したミクを祝福する俺とトモ。
軽い冗談なのに思いっきり叩きやがって、ったく。
「次はトモの試合ね。2年生が相手だけど頑張ってね」
「2年生と戦うのは初めてだけど、負けないよ」
休憩が終わった後は男子の試合。トモは第1試合で2年生と対決する。
ジャンケンに強くて反射神経が早いトモのことだ。今回も楽勝だろう。
「もうすぐ休憩時間か終了します――」
体育館の中にマイクからの声が流れると、同時に選手控え席のところへ宮元先生が来た。
「第1試合に出場する天樹と足利は防具マスクを着けに来なさい」
「ハイ、じゃあ行ってくるね」
そう言うとトモは椅子から立ち上がり、バトルスペースの側にいる藤原先生の側へ向かった。そして防具マスクを着けてもらうと、身体検査を受ける。
2人の身体検査が終わると、バトルスペースの境界線のところに主審の高木先生が立ち、右手を肩の位置まで上げた。
「これより『全体選抜PRS BATTLE』予選、男子の第1試合を始めます。白、1年A組、天樹友助。青、2年A組、足利吉宗。前へ」
「「ハイ!」」
「「足利ぁ、いけー!」」「「天樹負けんな!!」」
体育館のステージ側に作られた大型スクリーンに、バトルスペースに上る防具マスクをつけたトモと足利の姿が映される。
2人の姿を見た観客席にいる生徒達から熱い声援が飛ぶ。
「観客は静粛に!両者、礼!」
「「よろしくお願いします」」
高木先生の合図で、トモは足利に深く頭を下げる。その時、足利からトモに声が掛けられた。
「君の判断能力と、俺の運、勝つのはどっちかな?」
「えっ……?」
実は、トモと対戦する足利吉宗は幼い頃から運の強い男、幸運の持ち主。
交通事故に巻き込まれても無傷で助かったり、近所の福引では海外旅行を何回も当てている。
自分のお小遣いも宝くじで当てた懸賞金がある為、親から貰ったことがない。
去年、地元東京の高校に進学するのだが、「運も実力のうち」と言われる この『PRS BATTLE』の存在を知った足利は、自分の運がどこまで強いかを試すために、今年この高校に編入したのだった。
その言葉通り、足利は今までトモと同じように1回目のジャンケンで勝ちあがってきた。
「それでは両者セット!」
高木先生の声で、トモと足利は体制を整える。
「……RPS GO!」
その声で、トモと足利の右手が同時に前に出る。
トモはいつも通りギリギリまで足利の手の動きを見る。
『この指、腕の動き、絶対に間違えない!』
トモ出した手、グー。足利の出した手、グー。同じ手なのであいこだ。
2つの電光掲示板に、「Draw(引き分け)」の文字が点灯された。
「お前……俺の出す手はパーだと思ったんだろ?」
「ハッ!」
「やっぱりな。言っただろ?俺は運が強いんだよ!」
足利の言うとおり、トモの判断では足利の出す手はパーだった。
しかしなぜか、場に出た手はトモと同じグー。
足利の驚異的な幸運はジャンケンの出す手にも影響しているようだ。
「ドロー、リプレイ、両者セット!」
主審の高木先生の声が体育館の中に響く。
「……RPS GO!」
「お前と俺、どっちが勝つ――!!」
…………
……
2つの電光掲示板に、今まで見たことがない「Break(小休止)」の文字が点灯された。
「ドロー、10カウントにつき、3分の休憩を設ける」
「ブレーク表示なんて初めてみたぞ」「ってかこの試合、15分は経過してるな」
高木先生の声で、トモと足利はそれぞれのバトルスペース脇にあるパイプ椅子に腰掛ける。
観客席もブレーク表示にざわついていた。
トモと足利のジャンケンは連続10回のあいこが続き、ルール上3分間の休憩となった。