7-15
「やだやだ、いやですぅ」
「そんなに暴れるなって――ヒギィッ!!」
「気安く触ってんじゃねーよっ!」
ユメの泣き顔を見た瞬間、俺はバトルスペースを飛び出し観客席に一直線。
そしてユメの肩に手を乗せているオタク男子の手を捻り上げると、動けないように背中で固定した。
「ユウ兄ちゃん、ユウ兄ちゃん、ワアアアン」
「もう大丈夫だぞ。怖かったな」
ユメは座っていた椅子から降りると、俺の腰にしがみついて泣き出した。
オタク男子の手首を掴んで固定したままユメを慰めていると、そこへ高峰先生とミクが駆け付けた。
「何をしてるの!?」「ユメ、大丈夫!?」
いつもの甘ったるい声とは違うキツイ声の高峰先生と焦った声のミク。2人とも慌てたようすでユメの側に行く。
「おでぇぢゃん~、ごわがっだでずぅ(お姉ちゃん、怖かったですぅ)」
「気づかなくてごめんね、ユメ!」
「ユメちゃん怖い思いをさせてゴメンねぇ」
ユメは泣きながらミクにしっかり抱きついた。こんなオタク男、ユメでなくても気持ち悪いと思うぜ。
そこへ2年生のバトルブースにいた天堂先生が慌てて駆け付けてきた。
「三上くんも怪我はありませんか?その生徒は私が外へ連れて行きます」
「ハイ、お願いします――って、ワァッ!」
武道の達人である天堂先生なら任せても大丈夫だと思って引き渡そうとした時、オタク男が勢いよく俺から離れると、そのままの勢いでミクの方に向かう。
ミクはオタク男の行動に驚くが、ユメを抱いているためうまく動けない。
「やだ、何!?」
「時実さん、オレの気持ち分かってくれよ~――グワァッ!」
「これ以上怖がらせたら容赦しないよ」
オタク男の目の前にトモが現れ、オタク男の両手首をきつく握り締めていた。
「イテテテェ、離せよ!ゴラァッ!」
「自分が何をしたか分かっていないんだ?」
「グワァァッ、イタイ、イテエエ」
トモはそう言うと、握り締めている手に力を入れていく。
相当痛いのか、オタク男は抵抗することが出来なくなるが、トモはいつもと違う非情な眼差しをしている。
「もういい、天樹、離れなさい」
「天樹くん、そこまで。後は私達に任せてください」
天堂先生と騒動で駆け付けた鈴木先生がオタク男のからだを押さえ込むと、トモの手が離れる。
オタク男の手首にトモの手形が真っ赤に残っていた。どんだけ力をいれたんだ。
「離せよ、俺が何をしたんだよ!」
「静かにしなさい!!」
両脇を先生に挟まれたオタク男はそのまま体育館から外へ連れ出された。
オタク男の騒動で体育館の中はざわついていたが、少しずつ静かになる。
「ユウ兄ちゃん、トモ兄ちゃん、ありがとうですぅ」
「トモ、ユウ、2人とも大丈夫!?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「大丈夫だから気にしなくていいよ」
オタク男が居なくなって、落ち着いてきたユメとミクが俺とトモに話しかけてきた。
幸い、俺もトモ全く無傷。弱っちぃオタク野郎だったからな。
俺達より、泣きすぎたユメの方が心配だ。
「それよりユメ、目を冷やしてきたほうが――」ユメに話しかけようとした時、
「エリミネート、青、三上。試合放棄と――」
バトルスペースにいる二宮先生から俺の失格を告げる信じられない声が聞こえた。