7-14
「依田、三上、防具マスクを着けます」
俺と依田は副審の中島先生のところへ向かい防具マスクを着けてもらった後、身体検査を受ける。もちろんクリアだ。
「男子決勝、第2試合 白、1年A組依田旺士。青、1年D組三上有利」
「依田いけー!」「三上頑張れ!」
主審の二宮先生の声でバトルスペース上に上がった俺と依田に声援が飛んでくる。
応援をされると緊張するが、逆に励みにもなる。
「ユウ兄ちゃーん、頑張ってですぅ!!」
『ハイナァ、オレ、ガンバッチャウヨン☆』
ユメの可愛らしい応援に、思わず顔がにやける俺。
いかんいかん、今は目の前の勝負に集中しないと!
俺は気合を入れなおして、依田と向かい合った。
「それでは両者セット!……RPS GO!」
『ユメ!この勝負をお前に捧げるぜ!』
俺は観客席にいるユメを一瞬、横目で見てながら、右手を体の前に伸ばすが――
『また、あいこからのスタートかよっ』
今までの試合はグーを出してあいこが多かったので、違う手を出した。しかし依田と気があったのか、結果はまたもあいこだった。
「ドロー、引き分けにつき再試合、リプレイ」
「「あーあ」」「「おしいー」」
すぐに決着がつかなかったのを惜しむ観客の声が聞こえる。俺だってさっさと勝ちてぇんだよ!と、思ったその時――。
「ユウ兄ちゃん、ドンマイですぅ!」
『うんうん、ユメの言うとおり、ドンマイドンマイ☆』
天使のようなユメの声に俺の焦りとイライラがぶっ飛ぶ。
『今度こそ、ユメの声援に答えるぜ!』
体制を整え、試合に挑もうとした時。
「あれぇ、時実さんの妹かあ。似てるなぁ」
その声に慌てて視線を観客席に移すと、ユメの側に高峰先生がいない!?
そして一人で座っているユメの側に、如何にもオタクっぽい男子生徒が近づく。
『あいつ、ユメに何をする気だ!』
嫌な予感がしたが、試合は待ってくれない。
「ぐへへっ、やっぱり可愛いなぁ」
「な、なんですかぁ?」
ユメの怯える声が俺の耳と心に響く。
『ユメ、逃げろぉ、逃げるんだぁ!』
「両者セット!……RPS GO!」
ユメに合図を送ろうとしたが、何も気付いていない二宮先生は、試合を進める。
「この人、気持ち悪いですぅ」
「そのツンとしたとこも似てんなぁ~、へへへ」
観客席にいるユメを見るが、まだ高峰先生の姿は見えない。何をやっているんだよぉ。
『ぐおぉぉぉっユメ!今、俺が助けに行くからな!』
俺は右手に炎でも飛び出すくらい気合を入れる。
俺の出した手はチョキ。依田の出した手はパー。よし、神は俺に味方した!
『この勝負もらったぁぁ!』
俺の拳が依田の右胸にヒット!
青の電光掲示板には「Hit!!!」の文字と勝者を告げる機械音が鳴った。
「ヒット、攻撃成功!」
実はこのときの俺の動きは、トモが最速で攻撃をした時と同じ0.1秒だったらしい。
しかしユメの方が気になり、二宮先生の声が耳に入らない俺はやってはいけないことをしたのだった。
「お兄さんが綿飴を買ってあげるよ~」
「来ないでくださいですぅ」
ユメは泣きそうな声で近づいてくるオタク男子を嫌がる。しかし、オタク男子はニヤニヤしながらユメの肩に グッと、手を乗せた。その姿に俺は自分の瞳孔がカッと開き、頭の中が怒りで真っ白になった。