1-7
「オイ見ろよ、アイツあんな可愛い子と見つめ合っているぜぇ」
「アイツ、マジで羨ましいぞぉ~」
俺達の様子を見ていたクラスの男子のヒソヒソと声が聞こえてきた。
しまった!コイツと変な噂が立つと俺の楽しい高校生活が台無しだぁぁぁ。
「チッ、ユウに絡まれてトモに誤解されたら困るわ」
ミクは周りに聞こえないような声で舌打ちをすると、さっさと自分の席に向かって歩いて行く。
おいっ、それはこっちのセリフだぁぁぁ!!!と、思わず声を出しそうになるが。
しかしこれ以上目立つとヤバイと思い、口から出そうになった言葉を飲み込んだ。
「と、時実さんって喜多山中学校なの?」
ミクの前の席に座っている女の子が体をひねって椅子に座ったミクに話しかけてきた。
「うん、そうだよ。あっ、ミクって呼んでいいよ、よろしくね♪」
男女関係なく、可憐な微笑みを浮かべるミク。
「ミクって、すっごく可愛いね。もしかしてさっきの彼氏?」
「全然違うよぉ。まだ私、彼氏とか作ったことないもん」
ミクの席の周りに座っているクラスメートが時々俺の方をチラッと見ながら次々と質問してくる。
しかしミクは左手を口の近くまで持っていき、左右に細かく振りながら柔らかく否定する。
「ぬほおぉぉぉ、時実さん可愛いぃぃ~」
その仕草に、ミクの隣の席に座っている男子が興奮した声を上げる。
他の男子も目からハートが飛び出すような視線をミクに向けている。
トモォォォ!さっさとコイツの気持ちに気づいてくれいぃぃぃ!と、心の中だけで叫ぶ。
結局俺は右手で自分のこめかみを抑えながら、自分の席を探すとそこへ座った。
グレーのスチール製の机の上には、制服の襟につける校章と、安全ピンのついた赤い薔薇の花の造花が一つずつ置かれていた。
造花の下には名刺より少し大きいくらいの紙があり、そこには「薔薇の花は制服の左胸につけてください」と書かれていた。
校章はここ札幌ではよく見る、雪の結晶の形をした六花を思わせる六角形のデザインで。、この高校の特徴を表す文字と記号が描かれている。
俺は紙に書かれていた指示通り、襟に校章をつけ、制服の胸ポケットのところに薔薇の造花をつけた。
一番窓側の席なのと、斜め前に見えるミクとその周り達が鬱陶しいので、ガラス越しに外の景色を眺める。
窓の外は校庭に面していて、右側に野球とサッカーのグラウンド。左側にはテニスコートが複数見えた。
地面が綺麗に手入れされていて、スポーツにも力を入れていることがよく分かる。
さすがにこの時間は校庭に誰もいないな……。
ボーっとしながら考え事をしていると、廊下から落ち着きのないドタドタと歩く音が聞こえてきた。