6-8
「お姉ちゃんとユウ兄ちゃん、何してるんですぅ?」
「ほ、ほら、ユウが肩凝ったって言うから……」
コンビニから戻ってきたユメが、俺とミクに質問をする。
ユメにトモのことを知られたくないのか、ミクはわざとらしい言い訳をした。
「あっ僕、線香花火買ってきたんだよ」
「みんなで花火しますぅ」
トモはコンビニのビニール袋から線香花火とライターを取り出す。
ユメはその場でピョンピョン跳ねながら、トモが花火の準備をするのを待っていた。
「じゃあ、一人ずつつけるよー。ユメちゃん、火に気をつけてね」
「ハーイなぁ、気をつけるですぅ」
トモは、ユメ、ミク、俺の順で線香花火に火をつけていく。
「ユウ兄ちゃん、線香花火が途中でポタッってしないと願いが叶うんですか?」
「そうらしいな。ユメ願い事あるのか?」
「イヒヒ~、秘密なのですぅ」
そう言うと、ユメは静かにしゃがんで、真剣な顔で花火を見ていた。
「……お母さんがお家に帰れますように……」
秘密と言いながら、願い事を呟いているユメ。
くうぅ、抱きしめたいほど可愛いぜ!!
『トモに私の気持ちが伝わりますように……』
ユメと同じく、ミクも線香花火をじっと見つめ、願い事をしていた。
ジジジジジ……
『あと少し、頑張って、落ちないで!』
ポタ……。
「トモ兄ちゃん、線香花火くださいですぅ」
「いいよ、火をつけてあげるからおいでユメちゃん」
「はいなぁ!」
線香花火の火玉が落ちてしまったユメが、立ち上がった。が――。
「足がしびれちゃったですぅ~」
「おっと、危ない」
ユメは同じ姿勢でしゃがんでいた為、足が痺れてふらついた。
斜めになったユメの体が俺の方にきたので、とっさに腕を上げて支える。
その時、振り上げた手がミクの背中にぶつかった――。
『あと少し、落ちないで!』
「ユメ、転ぶぞ!」
ポタッ……。
『えっ……』
ドンッと、ミクの背中に衝撃があった後、ミクの足元に小さな火玉が落ちた。
「悪いなミク。ユメ大丈夫か?気をつけろよ」
「ユウ兄ちゃん、ありがとうですぅ」
『……花火が……』
ユメは立ち上がると、花火を貰いにトモの側に行った。
ミクは火玉が落ちた花火の燃えカスをジッと見つめている。
『あと少しだったのにー!』
「ミク、どうした?震えてるぞ?寒いのか?」
肩を細かく震わせているミクに話しかけた俺。しかし、顔を上げたミクの顔は能面のようになっていた。
「ユウ~!人の恋路をじゃまするヤツは……」
「えっ、な、何、俺、何かしたぁ?――ガハッ」
ミクはコサックダンスのように、しゃがんだ状態から俺の脛に蹴りを入れた。
「ドォォッ、火玉が落ちたの、俺だけが悪いのかよぉぉ」
「うるさい、問答無用!」
弁慶でも泣くところを蹴られて、思わず涙が出てしまう。
こうして俺の夏休みはミクの暴力で終わったのだった。