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「ユメ、乗れよ」
俺はユメの目の前で地面に肩膝をついた。
これだけの人がいると、背の小さいユメからは花火をみることができない。
だから俺は毎年、ユメに肩車をしている。
「でも、ユウ兄ちゃん疲れますですよぉ?」
「いいって、ユメなら軽いから大丈夫。もうすぐ花火が始まるから早く乗って」
「うん、ありがとですぅ!」
ユメは嬉しそうな顔をして俺の肩に足を乗せた。
浴衣を着ているユメを肩車したが、下にハーフパンツを履いているので、見られる心配は全くない。
「ユメ、はしゃぎすぎて、落ちないでね」
「はいなぁ~」
「毎年、悪いわね。ユウありがとう」
俺に肩車をされたユメを心配そうな顔で見るミク。当たり前だが、その顔はユメのお姉さんだ。
ヒュー、バーン!
「花火が始まったよ」
「たーまーやー」
暗い夜空に次々と花火が打ちあがる。
この花火大会と夏休みが終わると、またいつもの生活になるんだ。いや、今年はいつもと少し違う……
「ユウ兄ちゃん、学校が始まったら『PRS BATTLE』するんですか?」
俺の頭上から、ユメの可愛らしい声が聞こえてきた。
「あ、うん、学校祭の時にあるらしいな」
「生徒会長になれるといいですねぇ、応援してますぅ」
「ありがとうなユメ。俺、頑張るよ」
俺は笑顔を作ってユメの顔を見上げた。
俺がユメから励まされていた時、後ろでは、トモとミクが並んで花火を見ていた。
「トモ、真剣な顔で花火をみているのね」
「あぁ、なんか思わず願い事していたよ」
「どんなこと?」
トモの言葉に、ミクは不思議そうな顔をして質問する。
「やっぱり『PRS BATTLE』のことかな。勝てますようにって」
「トモなら大丈夫よ」
ミクは笑顔でトモの顔を見上げた。
「んー、世の中、『絶対』とか『必ず』は無いからね。ただ、そうなるように一生懸命頑張るだけだよ」
「そうね。悔いのないように頑張らなくちゃね」
「ミクちゃんも、願い事ってある?」
「え……?」
トモからの突然の質問にちょっとミクは戸惑うが、ミクの返答を聞く前にトモは顔を左右に振った。
「ううん、何でもない。そろそろ、花火もクライマックスだね」
「あ、そうね……」
ミクはトモの仕草を不思議そうに見ていたが、その言葉に夜空を見上げた。
ヒュー、ドーン!
パチパチパチパチパチ……
俺達は夜空を見上げ、今年最後の花火大会を楽しんだ。
「あー疲れたな。そこの公園で少し休もう」
花火大会が終わった俺達は、立ちっぱなしだったので、近くの公園で休むことにした。
「そこのコンビニでジュースでも買ってくるよ」
公園のベンチに座ったところで、トモが俺たちに声を掛けてきた。
「じゃあ、俺、コーラ」
「トモ兄ちゃん、ユメ、トイレしたいですぅ」
恥ずかしそうな声でトモに訴えるユメ。どうやら我慢していたらしい。
「あっ、じゃあ、ユメちゃんは僕と一緒にコンビニに行こう」
「はいなぁ」
「ユウとミクちゃんはそこで待ってて。すぐ戻るから」
トモはユメの手をしっかり握りながら、コンビニに向かった。
そんな2人の後姿をベンチに座りながら俺とミクは眺めていた。
「ミクお前、トモと恋人つなぎして花火を見たかったんじゃね?」
「バ、バカ、ユウ、何を言うの!」
「イテテッ、その怪力で叩くな!」
「人の恋の邪魔ばかりしているくせに」
雑誌のことが恥ずかしかったのか、俺の左肩をバシバシと叩くミク。
暗闇でも分かるくらい顔が真っ赤だ。