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「ユメ、可愛いじゃん」
「へへっ、ユウ兄ちゃん、ありがとですぅ」
テストが全教科赤点だった俺は毎日夕方まで学校で勉強漬になっていた。
その補習もようやく終わり、今日は市内を流れる石狩川の河川敷で行われる大規模花火大会。
紺色の浴衣を着てミクの家に着くと、ユメはレースやリボンのついた可愛いピンクの浴衣を着ていた。
まだ小学校3年生のユメが、花火大会を見るためには保護者同伴。
毎年、仕事で忙しい父親と母親が入院している為、ミクがユメを花火大会に連れていくのだが。
「ユウあんた、ミクちゃんとユメちゃんのボディガードをしなさい!」
「可愛い息子にボディガードさせるのかよぉ~」と訴えたが、女の子2人だと何かあったら大変だと、俺は母親に言われ……。
花火大会は毎年、俺、トモ、ミク、ユメの4人で行っている。
ユメはともかく、柔道黒帯のミクにボディガードなんて必要ないと思うけどなぁ。
ミクの家の玄関前で、支度をしているミクを俺とユメは待っていた。
「そうだユウ兄ちゃん、お願いがあるですぅ」
「何だ、ユメ?」
「あ、あのね、会場に着くまででいいから『恋人つなぎ』をして欲しいですぅ」
ユメの爆弾発言に激しく同様した俺は
ブーーーーーッ!!!と、鼻血が出そうになった。
恋人つなぎって、あ、あの、指と指をしっかり絡める……だよな。
「い、い、い、いいけど、どこで覚えたのかなぁ、ハハ?」
「お姉ちゃんの机の中にあった雑誌にあったですぅ」
目をキラキラとさせて話すユメ。
ミクー!純粋なユメを汚しやがって。とんでもない姉だ。
「ユメーッ!ユウに変なこと言わないでよ!」
その時、家の奥で支度をしていたミクがドタドタと足音をたて、俺たちの側に飛んできた。
ミクはユメとお揃いのレースやリボンのついたピンクの浴衣。
しかしユメの発言で、顔は茹でタコみたいに真っ赤。
ハハーン、トモを意識して雑誌の恋愛特集記事とか読んでいたな。
「バ、バカ!あれは友達から借りただけよ!」
「でも、ウサギのペタシール(付箋)がついていたですよ?」
「ほぉぉ~、熱心な友達だなぁ」
「ユウ!うるさい!」
必死で言い訳をするが、全てが空回りをしているミク。
「何か楽しそうな話をしているね?」
そこへ白地に黒の模様がある浴衣を着た、トモがやって来た。
トモの登場で、ますます顔が赤くなるミク。
お前の顔で、お湯が沸かせるんじゃねぇ?
「あっ、トモ兄ちゃん!あのね……ウググ……」
「あー、ユメ、ユウの親がインドから送ってくれた『ブッタ』の髪飾りつけようね~。きっといいことがあるって」
「ウウグ……フフグッ(お姉ちゃん、苦しいっ)」ズズズ……
ミクはユメの口を塞ぎ、引きずるように家の奥の方へ消えていった。
玄関に残された、俺とトモは呆気にとられていた。
「ユウ、『ブッタ』の髪飾りって?」
「……俺、自分の親の趣味を疑うわ」
――30分後。
「毎年人でいっぱいだね」
「うん、それに暗いからよく見えないわね」
花火がよく見える場所は毎年のことだが、大勢の人で賑わっていた。