5-24
「RPS GO!」
「ハァァアアア!」
「デフェンス、リプレイ!両者セット」
この対戦もジャンケンでは沼田が勝つものの、攻撃は全てミクが交わしていた。
「ハァ……ハァ……」
沼田は息も上がり、足がふらついてきた。
『何なのよー!ジャンケンではあたしが勝っているのに。もう限界、今度こそ勝つ!』
沼田は遠くなる意識をこらえて、ミクを睨む。
「RPS GO!」
――ジャンケンは、沼田の勝ち!
『今度こそ勝つ!』
沼田は最後の力を振り絞って、左手を前に出した――。
その時、青の電光掲示板に「Eliminate」という文字が映し出される。
「エリミネート、青、沼田。レッド」
『えっ?』
天堂先生の声に沼田の動きが止まった。
「沼田、足がバトルスペースから出ました。よって失格です」
沼田が自分の足元を見ると。自身の左足のつま先部分が、白のバトルスペースに入っていた。
『RPS BATTLE』では、床についている足がバトルスペースから出る、相手側のバトルスペースを踏んでしまうと、その場で失格となってしまう。
沼田は勝負を焦るあまり、ミクを攻撃しようと、足まで動いてしまったのだ。
「そ、そんな……」
沼田は取り返しのつかない自分の失敗に、ガックリと肩を落とした。
「勝者、白、時実未来!」
「ありがとうございました!」
「うう、足がでちゃうなんて。私のバカ!」
ミクと挨拶を交わした沼田は号泣した。
ミクは、なかなか泣き止まない沼田の背中をさすりながら審判を努めた天堂先生の側に行った。
「時実さんは高桑先生から防具マスクをはずしてもらってください」
「あの……でも……」
「ここは私に任せてください」
そう言うと天堂先生が沼田の防具マスクを外しながら優しそうに話し掛ける。
すると天堂先生の声に沼田はすぐに笑顔になり、照れながら体育館を後にした。
天堂先生、どんなテクニックを使ったんだよ!?
うきうきした沼田の後姿に、俺は驚愕してしまった。
「ミク、なんとか勝ったな」
「ヒャっとしたけど、勝ててよかったね」
「もーうあんな失敗しないよぉ……」
マスクを外し、俺達のところに来たミクにからかうような声をかけた。
イエローカードを貰ったことがショックだったのか、ミクは大人しかった。
次は頑張るよ……と小さく呟いて、D組のバトルブースに戻っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それでは『クラス選抜 RPS BATTLE 決勝戦』を勝ち抜いた32名の皆さん、おめでとうございます。皆さんは次回行われる『学年選抜RPS BATTLE』に出場できます」
対戦を終え、最後まで大広間に残ることができた32名の生徒達に、塩花譲輔教頭先生が話を続ける。
「昨日と同じく、防具服を着替えてから入浴になります。全員、お疲れ様でした!」
「「おつかれさまでした」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「三上、おめでとう!!カンパーイ!」
「矢田、森、ありがとうな!」
部屋に戻り、入浴を済ませた後、矢田と森が俺の勝利を祝ってくれた。
テーブルの上には、ポテチとコーラ。
だけど、俺にとっては何より嬉しい祝福だ。
「三上、次も勝って生徒会長になれるといいな」
「そうそう、D組で生徒会長になったら、成績でのクラス分けを廃止しろよ」
「アハハ、それいいな」
俺は矢田や森と、もしも生徒会長になったら……のバカ話で盛り上がった。
「あーあ、宿泊学習も今日で終わりだな」
「戻ったら、テストが待っているんだよなー」
「森、『RPS BATTLE』にテストってあんのか?」
「ハアァァッ!俺が言っているのは『学力テスト』だぞ、三上。忘れたのか!?」
「おおぉぉぉっ、俺、全然勉強してなかったぞぉぉ!」
「学力テスト」の存在を忘れていた俺は、森と矢田から話を聞いて、激しく同様してしまう。
「どぼしよう、あっそうだ!」ピッ
焦った俺は、トモのスマホに電話をした。
「もしもし、トモ、お前は俺の心の友、親友だよな~」
そして、電話の向こうで戸惑っているトモに、勉強を教えてもらう約束を取り付けた。
そんな俺の様子を冷ややかな目で矢田と森が見ていたことなど、全く気づかなかった。