5-23
「D組最終試合、白、時実。青、沼田。両者、礼!」
「「よろしくお願いします」」
バトルスペースに入ったミクと沼田は審判を努める天堂先生の声で、同時に頭を下げた。
「「時実さ~ん、頑張って」」「「ヒューヒュー」」
最終試合なのとミクを目当てに、D組の白側のバトルブースにはたくさんの男子生徒が集まっている。
「「観客は静かに!」
天堂先生の凛とした声が響くと。
「「天堂先生カッコイイ~」」「「素敵―」」
今度は天堂先生の姿を見に来た女子生徒達から黄色い歓声が上がる。
「羨ましいくらい人気ものだな、天堂先生」
「ホント、少し分けて貰いたいね」
トモは分けてもらう必要ないって、と俺は心の中で思った。
「両者セット!……」
天堂先生の合図にミクは少し緊張が高まった。
『指の動き……指の動き……』
ジャンケンに弱いミクは昨日、トモが話していた相手の指を見ることに集中していた。
「RPS GO!」
「やあぁぁ」
右脇下にあった沼田の右手が勢いよく、バトルスペース中央に飛び出す。
「ハッ――」
ミクは沼田の指ばかりに目が行き、ジャンケンを出すのが遅れた。
慌てて右手を前に伸ばすが、沼田の手が形を作っていた。
「白、遅出し。警告です」
天堂先生がスーツの胸ポケットから黄色いカードを取り出し、手に持ってミクに掲示する。
白の電光掲示板に「Advice」の文字と、横に黄色いランプが一つ点灯された。
「「ああ~~」」
「あ、ミクのヤツ!」
「遅出しなんてどうしたんだろ?」
ミクの対戦を見ていた男子生徒だけではなく、俺とトモの口から焦りがでる。
『RPS BATTLE』のルールでは、「RPS GO!」の合図から1秒以内で 素早くジャンケンを出さないといけない。
ジャンケンを出すのが遅れた「遅出しジャンケン」の時は、如何なる理由があろうと、「警告(Advice)」が適用され、イエローカードが出されてしまう。
「警告(Advice)」を受ける状況は様々あるが、イエローカードが2枚出されたところで、レッドカードになり、失格となる。
ミクはイエローカードが1枚出たので、もし、またイエローカードが出ると失格。
つまり、もうミクにルール失敗は許されない。これはかなりキツイはず。
「「時実さん、ファイト~」」「「時実さん、負けるな」」
ミクの対戦を見ている男子生徒から激励が湧き上がった。
「観客は静かに!……リプレイ。両者セット!」
天堂先生の声に、ミクと沼田が体制を整えた。
『どうしよう、もう失敗できないよ』
初めての失敗でピンチを招いたミクは焦りが出てきた。
『指の動きを見るとジャンケンが遅くなるし、見ないとジャンケンに負けちゃう……』
ミクの頭の中には悪いことばかりが浮かんでいた。
『どうしよう、もし、負けちゃったら……』
「ミクちゃん、いつも通り頑張れ!」
『――トモ!?』
白のバトルスペース後方、ミクの背後からトモの声援が届いた。
『そうだ、私らしく頑張ろう!』
トモの声援で冷静になったミクの心に気合が入った時、天堂先生の声が聞こえた。
「……RPS GO!」
ミクの右手がグー――沼田の右手はパー。
「Attack」と表示されたのは青、沼田の電光掲示板。
「やぁあああ!」と掛け声を出した沼田の左手が、ミクの右脇腹に向かった!
するとミクはスッと左足を一歩下げると、クルリと体を横向きに捻る。
そして背中を大きく反らして体全体を「くの字型」にした。
さらに両手は沼田の左手を包み込む。
まるでダンスでも踊るかのような華麗な動きで沼田の攻撃を防いだ。
「「すげー」」「「美しい~」」
対戦を見ている生徒達は、ミクのしなやかな動きに目を奪われていた。
「ディフェンス」天堂先生が声を上げる。
白、ミクの電光掲示板に「Defense」と点灯された。
『なんとか攻撃を防ぐことができたわ』
「リプレイ!両者セット!」
電光掲示板には「Replay」の表示され、それを合図にミクと沼田は姿勢を直した。