5-22
「ドロー、リプレイ。両者セット!……RPS GO!」
主審の東方先生の声に、二人はそれぞれの腕を動かす。
『今度は引き分けじゃなくて、勝ってやる!』
賀川の両手が体の前に伸びきったところで、左手に隠されていた右手がトモの目の前に出ようとする。
その時、トモの右手の指先が素早く形を作った。
「――ッ!!!――」
トモの手……チョキ。トモの出した手を見つめる賀川。
賀川の出した手は………………パー。
白の電光掲示板に「Attack」と点灯された時。
トモの左手はすでに賀川の目の前に来ていた――!
両手を前に出していた為、賀川は防御の姿勢が出来ない。
トモの左手を払おうと、両手を上に上げようとしたが。ドンッという音が体から聞こえた。
ブーーーッ!!!
白の電光掲示板から大きな機械音が鳴り、「Hit!!!」と文字が点灯された。
賀川の防御は間に合わなかった……。
「ヒット、勝者、白、天樹友助!」
東方先生の声が、A組のバトルスペースに響く。
「くそがぁ!俺の夢が、希望が!!」
負けが決まった賀川は、床に膝をつき、顔を両手で抑える。
マスクの下の目からは既に涙が溢れていた。
「賀川くん、素晴らしい試合をありがとう」
「ハッ?」
そこには賀川に手を差し伸べているトモの姿。
「あんな作戦を考えてくるなんて思わなかったから焦ったよ」
「焦る?……天樹が……まさか」
「本当だよ。左手の隙間から君の小指の動きが見えなかったら、負けていたよ」
「そうか……そういうことか、ハハッ」
「賀川くん?」
「天樹、お前は大したものだ。勝ち抜いて生徒会長になれよっ!」
そう言うと、賀川は腰をあげ、立ち上がった。
「試合終了、両者、礼!」
「「お疲れ様でした」」
東方先生の言葉に、トモと賀川は言葉を交わし、固い握手を交わす。
そして、賀川は見学席に行くため、大広間から出て行った――。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「トモ、お疲れっやったな!」
「ユウもおめでとう!」
バトルスペースから離れて、マスクを外したトモに俺は声を掛けた。
勝利のハイタッチを交わした俺達は笑顔で抱き合った。
「まさか左手で隠してくるとは思わなかったな」
「ああ、驚いたよ」
「それにしてもよく相手がパーを出したって分かったな?」
「両手ジャンケンは禁止だから、いずれ左手はどけるよね?左手が外れた時の右手の小指の動きで何とか分かったんだ」
簡単なことのように言うが、トモの動体視力と判断力は並外れている。
コイツがドンドン、この『RPS BATTLE』に慣れてきたら……そう思うと、親友ながら複雑な気持ちになった。
「ユウ、怖い顔をしてどうした?」
「あぁ、何でもない。おっ、そろそろミクの出番だな」
「本当だ、じゃんけんが強くなっているといいね」
俺とトモはミクを応援するためD組のバトルブースに向かった。