5-21
「白、天樹。青、賀川。両者、礼!」
「「よろしくお願いします!」」
その言葉が掛けられたトモは、対戦相手の賀川に頭を下げた。
『絶対に勝って、生徒会長になる!そして――』
そこまで考えたところで、トモは頭を左右に振る。
『……いや、今は目の前の勝負に集中しよう』
ため息を吐いた後、呼吸を整えた。
A組の主審を務める東方先生が両者の顔を交互に見つめる。
「両者セット!……RPS GO!」
その時、賀川がジャンケンを出す右手の上に左手を重ねた――。
『――ハッ!?――』
トモが指の動きを見て判断できることを知った賀川は、右手の動きをトモから見られないように左手で隠した。
『悪いな天樹。俺だって生徒会長になりたいんだよ!』
賀川の両手が体の前に伸びていく。
そして右手に重なっていた左手が動き、隠されていた右手が見えてきた。
『あの右手、僅かだが、小指が少し浮いている!』
トモの右手が素早く前に動く。
次の瞬間――
トモの手がチョキ、賀川の手がチョキ。――あいこ!
2つの電光掲示板に「Draw」と点灯された。
『フフン、やっぱり。手の動きさえ分からなければ、俺にだって勝機はある!』
あいこになった瞬間、賀川の顔に笑みが浮かぶ。
『公式練習場でも、天樹の勝ち以外見たこと無かったからな』
ミクの父親「時実道場」が開いた『RPS BATTLE 練習場』で、トモと同じ時間に練習をすることができた賀川。
そこで賀川は、トモがジャンケンで1回も負けていないことに気づく。
ト モの動きを見ているうちに、トモの目が対戦相手の手の動きを見ていることが分かった。
『それに……天樹に勝てば時実さんだって――』
賀川は入学式で見かけたミクに一目惚れをした。
最初はミクの外見の可愛さに惹かれただけだが、遠くから見ているうちに気持ちが抑えられなくなっていた。
しかし、『RPS BATTLE 練習場』でトモを見つめるミクを見て、ミクの気持ちに気づいた賀川はトモに嫉妬した。
『天樹に勝って、時実さんも手に入れてみせる!』
「ドロー、リプレイ。両者セット!……RPS GO!」
賀川の心に気合が入った時、審判の東方先生の声が響いた。
さっきと同じように、賀川の両手が宙に動き、右手の上に左手が重なる。
マスクで隠れているため、賀川からはトモの表情を知ることができない。
『生徒会長の座も、時実さんも、俺のモノだぁぁぁ!!!』
賀川は両手をググッと前に伸ばしてから、素早く右手を動かす。
その動きに合わせるかのように、トモの右手も動いた。
トモの手がグー、賀川の手もグー。――またあいこだ!
2つの電光掲示板に「Draw」と点灯された。
『そう簡単に天樹にやられてたまるかよ!』
あいこだと分かった賀川の額にはうっすらと汗が滲んでいる。対してトモは黙って何かを考えているようだった。