5-20
「白、三上。青、曽根。両者、礼!」
「「よろしくお願いします」」
俺と曽根はお互いに頭を下げて、相手に敬意を払った。
頭を上げて構えると、昨日の予選とは違う感覚が俺の体を襲う。
『やっべー、緊張してきたぜ……』
この試合で負けると終わってしまうということが重くのしかかる。
『こんなとこで負けるわけにいかないんだ!』
頭を左右に振り、雑念を振り払う。
天堂先生が俺たちの様子を見た後、口を開いた――。
「両者セット!……RPS GO!」
曽根はグー、俺がグー。あいこだ!
両者の電光掲示板に「Draw」と点灯される。
昨日と予選と同じ、1回目があいこになった俺。
『また、あいこか。次は決めたいなー』
焦るわけではないが、心のなかでそう誓った。
「ドロー、リプレイ」
天堂先生の声で、俺と曽根は姿勢を戻す。
「両者セット!……RPS GO!」
その声で2人が出した手は……。
俺の右手がチョキ。しかし、曽根の右手はグー。
『しまった!!!』
攻撃をする気でいた俺の体が少し崩れる。
青、曽根の電光掲示板に「Attack」と点灯され、攻撃権が曽根の手に。
ジャンケンで出された曽根の手が真っ直ぐ俺の鳩尾に――。
次の瞬間、俺の電光掲示板に「Defense」と点灯される。
間一髪。俺の右手は曽根の手をバシッと横に払いのけていた。あっぶねーっ。
俺が体制を直すと、両者の電光掲示板に「Replay」と点灯された。
「白、デフェンス。両者リプレイ」
審判を努めている天堂先生のテキパキとした声が続く。
『なにやっているんだ俺……負けたら終わりだぞ』
足の位置を確認しながら、自分に渇を入れる。
『俺もトモみたいな動体視力があればなぁ……』
勝つ気満々の曽根の姿をじっと見つめる。俺だって負けるもんか!
「両者セット!……RPS GO!」
天堂先生の声に俺と曽根の右手が宙を舞った。
そして、それぞれの出した手は――。
俺がパー、曽根がグー。
白の電光掲示板に光る「Attack」の文字。
俺は勝利を確信した瞬間、控えていた自身の左手を曽根の鳩尾に向けて真っ直ぐ伸ばす。
1つ前のジャンケンで俺に勝っていた曽根は、勝敗をよく見ずに俺に攻撃しようとした。
しかし俺の体制で自分の負けに気づき、防御しようとしたがすでに遅く。
宙にあった両手を防御に使うことなく、俺の拳をバシンッと、鳩尾で受け止めたのだ。
ブーーーッ!!!
大きな機械音と「Hit!!!」の文字が白の電光掲示板に赤く光った!!
自分の出した手を瞬時に判断できなかった曽根は、その瞬間敗退が決まった。
「ヒット、勝者、白、三上有利!」
神の啓示のようにブースに響く、天堂先生の声。
「うおぉぉぉ!!!勝ったぞーーー!」
俺は両手を高々と伸ばして、自分の勝利を祝う。
「勝者、三上はそのまま大広間に。敗者、曽根は防具服を着替え、見学者席へ移動しなさい」
勝負に負け、真っ赤な顔と目をしている曽根に、天堂先生の事務的な言葉が掛けられる。
少し体を震わせながら礼を終えた曽根は、ゆっくりと大広間から出て行った。
曽根の後ろ姿を見送った俺は勝負に勝って嬉しい反面、複雑だった。
負けてしまえばそれで終わり。来年まで『RPS BATTLE』に参加することは出来ない。
曽根の姿が見えなくなってから、俺は先生から防具マスクを外してもらった。
「三上、おめでとう!」
「サンキュー、長谷川。頑張れよ」
バトルスペースから出たところで次に控えている長谷川から祝福の言葉を貰った。
長谷川の顔にも緊張と気合が入っていた。
俺はそんな長谷川の肩を軽く叩いてエールと送ると、A組のバトルブースへ向かう。
「おぉっ、何とか間に合ったな」
そこには防具服に身を包んだトモと対戦相手がバトルスペース内で深々と頭を下げていた。