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「そういうミクちゃんは、相変わらずラーメンが好きなんだね」
「う、うん、オカズは沢山あるんだけど、目移りしちゃって……」
「で、いつもの『コーンバター味噌ラーメン』なんだ」
「別にいいでしょ」
ラーメンを選んだのをトモに見られて恥ずかしかったのか、少し照れるミク。
ミクがチョイスしたのは、茹でたコーンとネギ、ワカメをトッピングした味噌ラーメン。
仕上げにバターを一片入れて、バターを溶かしながら食べるのが北海道流なんだ。
しかし俺が突っ込みを入れると、冷たい言葉だけが返ってきた。クスン。
「そういやトモ、お前、間違っていたぞ」
「ん、何が?」
「ほら、あいこの確立。3回目のあいこは3の3乗で1/27だ『バカ、ユウ!』――って」
トモに話している途中で、俺はミクの持っていたラーメンのレンゲで殴られた。
「いきなり叩くなよ、ミク!」
「ユウが『はんかくさい』からでしょう!あいこが連続10回続く確率は、1/3の10乗だから、59409分の1ってトモが言っていたじゃない」
ミクは入学式後3人で行った、ファミレスでの会話を持ち出す。
ちなみに「はんかくさい」とは北海道弁で「バカみたい」という意味。
「あ、あれっ、そういえばそんなことを話していたな」
「ステーキに夢中になって、トモの話を聞いていなかったのはあんたよ!」
ミクは怒りMAXの視線を俺にぶつけてくるけど、そんなに怒らなくてもいいじゃん。
「アハハ、ユウの数式勘違いは結構昔からだからね。気にしていないよ」
「と、トモ~、お前ホント、マジで、心の友だ」
俺の小さな失敗をいつも優しく受け止めてくれるトモ。
「そんな大げさに言わなくてもいいよ」
俺の様子に、トモは少し苦笑いを浮かべる。
「そんなことないぞ。ミクと違ってちっちゃなことにこだわらないし」
「……ユウ、宿泊研修が終わったら、お父さんの道場で待ってるね」
その言葉にハッと気づいてミクの方を見ると、そこには般若が! 俺の背中に何か冷たいものが走った。
「あー、久しぶりにユメと組み手でもしようかな。ハハハ」
「遠慮しなくて良いわよ。私が相手に、な・る・か・ら」
精一杯の笑顔をミクに向けると、ミクは悪魔が背後にいるようなキラキラ笑顔で返してきた。
「柔道3段のミクちゃんの手合わせなんてすごいじゃないか。僕も手合わせしたいよ」
この状況とオーラを全く感知しないトモの天然発言。
だが、この発言が俺の窮地を救う!
「えっ、ト、トモが、私と、て、て、手合わせ、なんて」
さっきまでの魔王降臨から、乙女に戻るミク。
フゥゥゥー、助かったぜ!よし、今のうちに――。
「夕食の時間が無くなるから、さっさと食べようぜ」
「すっかり話しこんじゃったね。じゃあ、『PRS BATTLE』決勝戦、頑張ろうね」
トモの言葉にポーッとなっているミクをその場に残して、手に持っていた食事を食べるために各自の席に戻っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「全員食べ終わりましたか?」
生徒の食事が終わった後、B組担任の佐藤先生の声がレストランの会場の中に響いた。
「これから『クラス選抜 PRS BATTLE』の決勝戦を開始します。決勝戦進出者は防具服を着替える部屋に、それ以外の生徒は3階の大広間に集合してください」
「「「ハイッ!!!」」」
昨日と同じく、A組から順にレストランを出て、宿泊部屋に戻っていった生徒達。
「三上、頑張れよ!」
「おう、矢田、森、アリガト!」
部屋に戻り、必要な荷物だけを持り3階へ行くと、矢田と森は大広間の見学席へ。
決勝戦に出場する俺は大広間の隣、防具服を着替える小広間に向かった。