5-17
「チッ、もっとあの『顔だけ女』を困らせたかったのに」
「西郷さん、何か言った?」
「ううん、なーんにも言ってないわよぉ桜井さん」
西郷は隣にいる桜井に作り笑顔を向ける。
この時、誰も知らなかったが、西郷の目にゴミが入ったと言ったのは真っ赤な嘘。
西郷はトモに想いを寄せるミクを嫉妬させる為に一芝居しただけだった。
トモと分かれて桜井と一緒に加工施設を見学した時、西郷が目にしたのは、いつもの笑顔をしたミク。
俺からのメールを見たミクは安心して、俺の仮病でトモと離れた西郷は悔しさを浮かべた。
「この芹菜サマが『顔だけ女』に負けるものですか!」
西郷は友達と楽しそうに話しているミクを背後から睨みつけていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いやー、お昼美味しかったな」
「ジャンボ寿司とは聞いていたけど、あんなに大きいとは思わなかったぜ」
富良野から旭川に戻り、昨日と同じホテル帰った俺達。
同室の矢田や森と、今日の富良野での出来事を話していた。
「そういや時実さん、いつの間にか機嫌が直っていたけど何かあったのか?」
「うーん、単なる食いすぎだったんじゃね?」
ミクには悪いが、トモの安全の為にここは黙っておこう。
「そっか。ところでいよいよ決勝戦だな」
「三上、勝算はあるのか?」
「おう、トモからじゃんけんの確立を聞いたんだ。例えば3回目のあいこの確率は1/9だろ。だから……」
「三上……天樹って数学苦手なのか?」
俺の話を聞いていた矢田が首を傾げ、顔をしかめた。
「まっさかーっ、アイツは数学で100点以外、とった事がないんだぞ」
「三上……3回目のあいこの確率は、3の3乗で、1/27だぞ」
「ぬほぉぉぉ、矢田、それは本当か!?」
「ああ、間違いない」
矢田は俺の両肩に自分の手を乗せ、目の前で深いため息をついた。
真剣な顔で俺を見つめる矢田に、ドキドキしてしまう。
「会計テスト選抜」の矢田の言うことだ、間違いない。
「おおお、トモが、初めて間違えた!後で教えてやろう!」
矢田にあいこの確率の真実を聞いた俺は頭の中に数式を叩き込む。
その様子を矢田と森が冷ややか目で見ていることに気づかずに。
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「今日の夕食はバイキングです。各自、自分の食べられる分だけを盛り付けるように」
「「「ハイッ!」」」
昨日と同じレストランでの夕食。
しかし、今日の夕食はバイキング形式になっていた。
フードコーナーには北海道で採れたたくさんの食材が調理され並んでいた。
「イカ、イカ、イカ刺し、美味しそう~。っと、あっトモ!」
「ユウ、相変わらず海産物好きだね」
「ホント、生モノが好きなのね」
「ミ、ミク!後ろからいきなり話しかけるなよ!」
俺が持っている皿の上には、カニの足、マグロ、サーモン、イカの刺身など海の幸がてんこ盛り。
対してトモの皿の上には、ハンバーグ、から揚げ、トマト、キャベツなど、山の幸がいっぱい。
そしてミクは皿ではなく、小ぶりのラーメン丼を持っていた。