5-15
「ん、あれは……トモだよな?」
A組のバスに乗ろうとする男女の姿が。
一人はトモ、そしてもう一人は……西郷芹菜だ。
トモは右手に大きな紙袋を持って、左手は西郷の手を……握っている!?
んんー!?自分の目を大きく見開いて確認する。
が……何度確認をしても、トモの左手が西郷の手と繋がっている!何で?
笑顔で言葉を交わしている西郷とトモは、微笑ましいカップルのようだ。
その時――背後から感じる只ならぬオーラに思わず振り返ると……。
引き攣ったような、固くなった表情のミクがトモと西郷を凝視していた。
こ、こ、怖ぇぇぇ!!!
ミクから出ている黒いオーラに、俺の背中が凍りつく。
しかし、トモはミクに気づかないまま、西郷と一緒にバスの中に入ってしまった。
「おい、三上、時実、さっさとバスに乗りなさい!」
鈴木先生の方に、氷の仮面を被ったミクがゆっくりと振り返った。
「と、と、時実、さ、さ、さっさとバスに乗りましょう……ね?」
「…………」
いつもと違う、修羅のような殺気だったミクに鈴木先生の声が上擦る。
そのまま無言のままバスに乗り込むミク。
「時実さん、ここへ座ってください!」「いやここへ」「いやこっちへ!」
「……………………」
「あー、いやあ、何でもないっす」「俺もいいです」「俺もー」
笑顔の消えたミクに男子達も静まりかえる。
「三上くんもバスに入りましょうねー?」
ミクに圧倒された鈴木先生は俺にまで丁寧な言葉で話しかけてきた。
次の目的地に着くまでの間。
いつもの雰囲気が無いミクに話しかける勇気のある男子生徒も無く、D組のバスの中はお通夜のような静けさ、いや暗さ。
うわあ、今日一日、いや下手したらずっとこんな雰囲気になるのか?
「おい、ユウ。時実さんどうしたんだ?」
俺の隣に座っているコウジがコソコソっと耳打ちしてくる。
「知らねーよ。本人に聞けば?」
俺はちょっとうんざりした声でコウジに返答した。
んー、確かにこの雰囲気、何とかしたい。けど、俺じゃ無理なんだよな。
ほとんど誰も話をしない静かなまま、バスは次の目的地に着いた。
ここのラベンダー加工施設を見学したあと、お昼ご飯になるんだけど……。
「全員、ここでお昼にするぞ。全員、順番にバスから降りなさい」
ここでも無言でさっさとバスを降りるミクに、さすがの鈴木先生も困惑顔。
「み、三上ちょっと……」
宙に上げた右手首だけをクイクイッと曲げて俺を呼ぶ先生。
言われることは検討ついているけどね。
「時実なんだが……まあ、バスの中が静か……なのはいいんだが、その……静かすぎて……な?」
言葉を濁しながらも、暗い子になったミクを何とかして欲しいと言いたいのが見え見えだ。
「一応、何とかしてみますが、多分、難しいと思いますよ」
「ああ、頼むな三上」
困っている鈴木先生にそう返答した後、色々と考えて見た。
ミクがあれだけ落ち込む原因なのは、トモだからな。
「うーん、トモになんて聞けばいいんだ?『メガネっ娘が好きなのか?』いや、『西郷が運命の出会いなのか?』……もう、何で俺がこんなに悩まなくちゃいけないんだ?」
バスから降りた生徒達が次々と加工施設の中に入っていく。
しかし俺は、入り口の前で、頭を抱えながら唸っていた。