5-12
「白、時実。青、月読。両者、礼!」
「「よろしくお願いします」」
バトルスペースに入ったミクと、対戦する月読が互いに頭を下げる。
「ヒューヒュー」「時実さん頑張れ!」
ミクの対戦を見ようとD組のバトルスペースには、たくさんの男子生徒が集まってきた。
「ミクちゃん、人気モノだね」
トモ……さっきまで女子から声援を受けていたヤツがよく言うぜ。
「観客は静かに!両者セット!……RPS GO!」
ミクの右手がグーを出すと同時に月読の左手はパーを出していた。
青、月読の電光掲示板に「Attack」と点灯される。月読の攻撃権。
「ミクちゃん、相変わらずだね」
ジャンケンに負けたミクを見つめるトモの目は心配そのもの。
そうだ!ミクは昔からジャンケンに弱かったんだ!
「やあぁ!」
ミクと向かい合った月読の左手が、ミクの右肩に向かっていく!
その時、ミクの体がフワッと動いた。
右足を一歩下げ右肩を後方動かすと、左手は伸びてきた相手の左手をそっと押さえる。
そしてそのまま右足でつま先立ちをして、左足を前に蹴り出してクルッと旋回する。
その美しい回転はまるでバレエ「白鳥の湖」に出てくる、黒鳥オディールのグラン・フェッテ(回転技法)のようだ。
ミクは狭いバトルスペースの中で軸足がぶれない綺麗な1回転を決める。
「おぉ~」「ヒュ~」
ミクのしなやかな動きに、対戦を見ていた男子生徒達から歓声が上がった。
「ミクちゃんの防御は完璧で綺麗だね」
「あぁ、そうだな……」
格闘技マニアのトモはミクの防御を皆とは違う、別の視点から見ていた。
白、ミクの電光掲示板に「Defense」と点灯される。
「ディフェンス」
審判の鈴木先生が判断を下す。
その後、電光掲示板には「Replay」の表示された。
「リプレイ!両者セット!」
ミクが月読の攻撃を防御したので、試合は振り出しに戻った。
「RPS GO!」
ミクの右手がチョキを出す。しかし、相手の左手はグー。
また、青、月読の電光掲示板に「Attack」と点灯された。
「ミクちゃん……また、だね」
「うん、だな……」
俺とトモはミクのジャンケンの弱さにため息をつく。
「ハアァァ」
今度は月読の左手がミクの額に飛んできた。
だが、ミクの上半身はその左手との距離感を保ったまま、ゆっくりと後ろに傾いていく。
クニャッと、背中を大きく反らしながらも、ミクの右手は的確に相手の左手を押さえている。
その柔らかい動きはオリンピックで優雅なレイバック技を披露し、金メダルを獲得したフィギュアスケート選手を思わせた。
「ウホォォォ」「すげ~」「綺麗~」
ミクの防御に男子達だけではなく、女子達からもため息のような声が上がる。
白、ミクの電光掲示板に「Defense」と点灯された。
ミクと月読が体制を直す。両者の電光掲示板に「Replay」と点灯された。
「ミクちゃんの柔軟性はすごいよ!格闘技において柔らかい体は……」
「トモ、お前本当に格闘技が好きなんだな」
ミクの動きを見ながら、格闘の世界に頭が飛んでいったトモを、もう誰も止めることができない。
「デフェンス、リプレイ!」
「ハア、ハア……」
攻撃をしても全て柔らかい動きで交わしてしまうミクに、月読は焦りと疲れが出てきたようだ。