5-11
「白、木村。青、天樹。両者、礼!」
「よろしくお願いします!」
その言葉と一緒にトモと対戦相手の木村は頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします。精一杯がんばろう」
これから戦う相手に礼儀正しい言葉を掛けるトモ。
A組の審判は天堂先生。副審は理科教員の引田和子先生
「「「天堂くん、頑張ってー!」」」
青のバトルスペース後方から防具服を着た女子生徒の黄色い声援が飛ぶ。
どうやらトモのファンみたいだ。羨ましいぞトモ。
「両者セット!……RPS GO!」
天堂先生の声と同時に、木村の右手が振りあげられる。
しかし、トモの腕はすぐには動かない。
じっと木村の指の動きを見る。
『あの指の動き――僅かだが、人差し指と中指だけが動いた!』
幼い時から医学書を読み漁り覚えた人体の動き。
『拳のまま、指がまったく動かないのはグー。小指とそれに連動している薬指が動く時はパー。そして、今回は――』
柔道の練習で鍛えた動体視力。
『まだ早い、まだ……まだ――今だ!』
そして物事を瞬時に計算できる判断力。
その知識と才能が合わさった時、トモは自分の出す手を決めた。
そして、右手でグーを出したトモの目の前には!
……木村の右手から出たチョキがあった。
トモの電光掲示板に「Attack」と点灯される。トモの攻撃権だ!
『右足を一歩前に踏み出し、右腕を前に伸ばしたので、右肩が前に出ている。しかも今、右腕は下がっている――』
コンピュータより素早く的確に木村の防御の弱点を計算し、迷わず狙いを定めるトモ。
『よし、ここだ!』
ジャンケンでの勝利を確信していたトモの左手が!
素早く木村の右鎖骨付近を捕らえた――!!
トモが右手でグーを出して、左手で攻撃するまで約1秒。
トモの攻撃まで考えていなかった木村の体は……動けなかった。
木村は防御の姿勢を取ることも、トモの左手を払うことも、出来ない。
『しまった!』
ドンッ!!! ブーーーッ!!!
トモの電光掲示板から大きな機械音が流れた。
青の電光掲示板には「Hit!!!」と点灯されている。
「ヒット、勝者、青、天樹友助!」
「「「天樹くん、おめでとう~」」」
トモの勝利が決まった瞬間――青のバトルスペース側から華やかな声が上がった。
「試合終了。両者、礼!」
「「ありがとうございました」」
トモと木村は深く頭を下げると、がっちり握手をする。
その後2人は、先生からマスクを外してもらってから、バトルスペースを後にした。
「トモ、初戦突破おめでとう!」
「ありがとう。ユウも勝ったんだね」
試合を観ていた俺の側に、バトルスペースから降りてマスクを外して近寄ってきたトモ。
俺とトモはお互いの勝利を祝うように、ハイタッチを交わす。
「第1投ですぐに攻撃権を得て、さらに勝利をするなんて、さすがトモだな」
「たまたま計算が当たって良かったよ」
「そうか、あっ、俺もちゃんと計算したぞ。俺はあいこが2回続いて3回目で勝ったけど、3回目のあいこの確率は1/9。だから、ぜったいここで勝負がつくと思ったんだ!」(正解:1/27)
俺が嬉しそうに報告すると、なぜかトモは引き攣ったような笑顔をみせた。
「トモ、どうした?」
「ううん……何でもないよ。あっ、ミクちゃんの登場だね」
トモの声でD組の方を見ると、バトルスペース上にはミクが立っていた。