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先ほどのサイレン音は、天堂先生が手に持っているハンド式の金属探知機のようなモノから出ていたらしい。
「あ、あの、これは、シロくろっ娘の『桜まどかちゃん』から貰ったサイン入りのフォトラミネートで……」
夏木は人気のアイドルグループ、シロくろっ娘のメンバーの写真をプロテクターの下に隠し持っていたらしい。
「夏木大吾、不要物を隠し持っていたので失格です」
「ちょっ、先生、ま、待ってください~」
先生は顔色一つ変えずに失格を言い渡す。
しかし、夏木は納得していないようで、先生にすがるような声を出す。
「お、俺、『桜まどかちゃん』に生徒会長になったら、付き合ってってお願いしたんです~」
「言い訳無用。後日自宅宛てに学校から処分通知が来ます」
天堂先生の言葉に夏木の全身が振るえ始める。
「お、俺、ま、まどかに――……うわぁぁぁぁ!!!!」
奇声を上げた夏木が天堂先生に向かっていった!
夏木はその勢いのまま、先生の右手をグイッと掴んだ。
「危ない!」と、思わず声が出たその時――。
先生は空いていた自身の左手の甲で夏木の顔面を素早く目打ちした。
そして、目打ちをした左手で夏木の右腕を掴むとそのまま大きく振り上げると。
その姿勢のまま、体を反転させながら自分の体を沈めた。
「うわぁぁぁっ!」
――直後、先生の肩越しに夏木の体が大きく宙を舞い、ダンッと、鈍い音がした。
「ググ……」
床に叩きつけられた衝撃で、夏木の体は動けなくなったようだ。
先生に飛び掛っていって、逆に投げ飛ばされるまで約数秒、
息を切らすことも服に乱れもほとんど無い天堂先生が、夏木を睨みつけていた。
「スゲー……」「素敵~」「カッコイイ」
夏木と先生のやり取りを見ていた生徒達から驚きと感動の声が漏れる。
「あれは拳法の剛柔一体の投げ技!?」
「トモ、知っているのか?」
「うん、間違ってなければ。でもあれは拳法の達人が使う技のはず」
俺と同じ列に並んでいたトモが驚いた声を上げる。
医学的なことばかり話すトモだが、実はカンフー映画や格闘技のDVDが大好きでコイツの部屋にあるDVDラックの中はDVDでびっしりだ。
そんなトモは、天堂先生の技に目を輝かせて、先ほどの投げ技の解説を始めた。
いや、格闘技マニアじゃなくても、先生の華麗で素早い技は只者じゃないって直ぐに分かる。
それにしても、天堂先生。イケメンで武道の達人って、世の中不公平すぎません!?
「コラ夏木、しっかり立ちなさい。天堂先生お怪我はありませんか?」
騒動を見ていたC組の副担任で技術教員の高川仁先生が、養護教員の高峰先生を連れて側に着た。
高峰先生は白衣を羽織り、胸元の大きく開いたTシャツと、膝より上の黒のミニスカート。
右手に小型の救急箱を持っている。
それまで倒れている夏木に行っていた男子の視線が、一気に高峰先生のプルンプルンに向かう。
「あらぁ、先生~、左手から血が滲んでますぅ」
いつもの甘えたような話し方をする高峰先生が、持っていた救急箱から何か取り出そうとした。
しかし、天堂先生は自分の右手を救急箱を持っている高峰先生の手の上に乗せた。
「あぁ、私は大丈夫です。それより夏木大吾を指導部屋へ。明日、朝一で保護者に来てもらいましょう」
その声に、高川先生と生徒会から派遣されていた役員補佐の3年生、小林健が夏木を抱えると、大広間を出て、連れ去っていく。
指導部屋とは、『RPS BATTLE』で違法行為が発覚した生徒が入る部屋。 保護者が迎えに来るまで先生の監視下に置かれる。
勿論、他の生徒と一緒に旅行を楽しむことなど出来ない厳しい処遇だ。