5-4
「第1問。お寿司、しゃぶしゃぶ、おでん、名探偵が好きな食べ物はなんでしょう?」
「ハイ」「ハイ」「ハイ」「ハイ」「ハイ」
「正解は、名探偵は推理(すいり=酢入り)が好きなので、お寿司でーす」
「お前ら本当に正解知ってるのかー!?間違えたヤツは夕食無しだぞ!」
「ユウ、罰ゲーム、厳しくね?」
D組のバスの中では車中レクが始まり、ミクの出したクイズの問題に男子生徒達が一斉に手を上げる。
俺は興奮している猿――いや男子生徒達をどう静めようか考えていた。
そして出発前にA組の西郷芹菜にトモの為に作ったお握りを落とされただけではなく、皮肉まで言われたミク。
バスに乗った最初は落ち込んでいたが、レクが始まる頃には明るくなって皆を盛り上げていた。
バスはA組を先頭に高速道路を走り、旭川の方に向かっていく。
この後、バスの中で交流を深めるレクをした俺達はそのまま車中でそれぞれが持参したお昼ご飯を食べた。
「ミク、また落ち込んできたのか?」
「トモに私のおにぎりを渡せば良かった」
持ってきたお握りを見つめながらポツンと呟くミク。
あーっ、コイツがうざくないとなんか調子が狂うなぁ。
「これ見ろよっ」
俺はミクに、トモから送られてきた画像を見せた。
「ユウ……これ?」
ミクのお握りはラップでしっかり包んでいた為、ほとんど形が崩れていなかった。
「トモが『美味しかったよ。ありがとう』だってさ。良かったな」
恐らくトモは直接ミクにメールを送っても、かえって落ち込むと思って俺に送ってきたんだろう。
しかし、これだけ気遣いができるなら、さっさとミクの恋心に気づいてやれよ、まったく。
トモからの画像を見て元気がでたミクは、持ってきたお握りを幸せそうな顔をして食べた。
昼食を食べ終わった頃にバスは「旭山動物園」に到着。
これから3時まで短い時間だが、動物園の見学だ。
「アザラシが出てきたー!」「ヒョウの肉球に触れそう」
「ペンギンのお腹が見えるぅ」「オオカミ迫力ある~」
旭山動物園は高速を通って3時間ほどで行ける距離。
しかも入場料が安いので、すでに行った事がある人が多い。
行動展示の施設が整っているので、何回来ても飽きずに楽しむことができる。
「と、時実さん一緒に写真撮ってください」「俺も一緒に」「俺もぉ!」
「お前らうるさい!あそこの檻に入ってガラス越しに時実と写真でも撮れ!」
ミクに群がる男子共に、鈴木先生が「チンパンジーの森」を指さした。
「「「ギャハハ~、先生ウケルぅ」」」
鈴木先生の態度を見て笑うD組の生徒達。
そんな様子を呆れて見ていた俺だが、ミクの顔が固くなっているのに気づいた。
「天樹くん、一緒に写真撮ろ♪」
はぁぁ~、やっぱり。
ミクの視線の先には同じA組の女子と並んで写真を撮っているトモ。
動物園は1年生全員が見学しているので、クラス毎の移動になっている。。
どんなに仲が良くても、A組とD組は一緒に行動できないのだ。
そんなミクの様子をバカにするように見ている西郷に気づいた俺。
俺の視線に気づいた西郷は、一瞬ニヤリと笑い、その場から立ち去った。
ミクは俺の天敵だし、うざい。が、西郷の態度や口調はもっとムカツク!
動物園の見学を終えた俺たちは一路、宿泊先のホテルに向かった。
ホテルに向かうバスの中でも、ミクに黄色い声を上げる猿(男子共)と先生の怒声が響いた。
先生~、ホテルに着くまでに血圧あがるんじゃねぇ?
俺は鈴木先生の体調がちょっと心配になっていた。