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「ところでミク、あなたも『PRS BATTLE』にエントリーするの?」
それまでユメの話を聞いていた母親が、ミクの方に顔を向けると心配そうな顔をする。
「うん……私ね、女子生徒会長になりたいの」
「そう。生徒会長になれるといいわね。悔いのないように頑張りなさい」
本当はミクのことが心配なんだろう。だけどそんなことを口に出さないで、応援をするミクの母親は優しいと思う。
「お母さん、大丈夫ですよ。ミクちゃんならきっと生徒会長になれると思います」
「トモが……お母さん……大丈夫って」
トモの言葉に、ミクの思考がカルフォルニアまで飛んでいく~。コラッ飛ばされるな!
ミクの隣にいた俺は、正座していたミクの足の親指をギュッっと抓った。
「イタッ!」
「ミク、お前足が痺れんたんじゃないか?」
一瞬、俺のことを睨んだミクだが、俺の言葉に幽体離脱した気持ちが元に戻ったようだ。
「足が痺れたの?ミクちゃんにしては珍しいね?こういう時は親指を反らすと……」
勘違いをしているトモがミクの足の親指を擦ろうとした。
「ヴ、ヴォホン、ミク、足の親指くらい自分でなんとかしなさい」
その時、師範が口に手をあて、大きく咳払いをした。
「でも、足の血流が悪くなるとエコノミー症候群とか起こりやすくなるので、きちんと診たほうがいいかなと」
トモは真面目な顔で師範に答えて、ミクの足を眺めている。
勿論、トモに疚しい気持ちは全く無い!
病人を診る医者のようにしかミクの足を見ていないんだけど……
トモに足を見つめられているミクの顔は溶けそうなくらい真っ赤。
このままトモが足に触れたら動悸、息切れで倒れるんじゃないか?
「時実さぁん、少し落ち着いたかしらぁ?」
トモとミクの間に高峰先生が入ってきて、ミクの足を擦っていた。いつの間にいたんだ?
「あ、あ、大丈夫です……すいません」
高峰先生に足の指先を揉んでもらって、ちょっと残念な顔をしているミク。
しかーし、俺の目はミクの肩越しに見える、先生のプルンプルンに……。
「ユウ兄ちゃんも……キレイナオネエサンガスキナンデスネ」
斜め前から聞こえた背筋が凍りつくほどのユメの声に俺は慌てた。
「あっ、俺は違う、俺はロリ……じゃなくてユメが……」
「三上、うちのユメが何だって?」
やべ~~っ、返答によっては俺、師範に殺されるぅぅぅ!
だけど、ユメにも嫌われたくない!
「な、な、何でも無いです!!マジで本当に失礼しましたー!!!」
俺は床に頭を擦り付けるくらいの土下座をした。
すると頭の上でパシャッっと軽い機械音が鳴った。
「ユウの土下座、撮っちゃった~」
「バ、バカッ、ミク、そんなもん撮るんじゃねいよ!」
「三上、誰の娘が『バカ』なんだ?」
「ヒエェェェッ!す、す、すいませーん!」
「クスクス……今日はここに来れて良かったわ」
「ホント、時実さん幸せですねフフフッ」
俺たちの様子を見ていたミクの母親と、高峰先生が笑い出した。
……こうして道場開きは平和に楽しく終了したのだった。