1-2
学校に通っている子供が一人暮らしなんて……と言われるかもしれない、が。
元々、海外勤務や出張が多い父に付き添って出かけてしまう、気ままな母の下で暮らしていたので、料理は得意な俺。
本当は、棚にあるインスタント麺やレトルトばっかり食べて、飽きてきたのと。
小学校4年生の夏休みの時にイタリアに単身赴任していた父のところに行って食べたパエリアやスパゲティの味が忘れられなくて自分で作り始めたのがきっかけだ。
俺の一番得意な料理は、モッツァレラチーズとオリーブオイル、生バジルで作ったマルゲリータ。
これは遊びに来た友達にも食べてもらって感激されたことがあるくらい。
まっそんなこともあって、今までも時々短期の一人暮らしをしていたから気ままに生活はできる。
たまにちょっと寂しく感じることがあるけどね。泣くほどじゃないけど。
「ごちそーさま!」
そんなことを考えながら食事が終えた俺は、食べていた食器を直ぐに台所に持って行き、洗い場で綺麗に洗い片付ける。
潔癖症ではないけど、食べ終わった食器は直ぐに洗わないとなんとなく落ち着かない。
それにグラスぐらいしか洗うものがなかったので、後片付けは早く終わった。
片付けが終わると、捲り上げたワイシャツの袖を直しながら居間に戻り、テレビを消す。
それから寝室に移動し、タンスの中から紺色のブレザーと赤ネクタイを取り出して、身に着ける。
そしてベッドの足元側にある、机の上に置いてある黒の学生鞄に手を掛けた。
机の上には木のフレームに収められた写真が置かれている。
ローマ屈指の噴水・トレビの泉を背景に、幼い少年と少年の頭に手を置きながら微笑んでいる若い夫婦。俺と両親が気に入っている1枚だ。
親子で撮った写真を少し眺めたあと、俺は真っ直ぐ玄関へ向かった。
ガシャン、ガシャッ
「鍵よし!行ってきまーす」
玄関の鍵をかけ鞄に鍵を入れると、誰も居ない部屋に向かって軽く挨拶をした。これもいつものクセ。
階段を駆け下りると、真新しい靴からタンタン……と、軽快な音がする。
鞄の中には買ったばかりの筆箱と財布、袋に入った上靴、数枚の書類とスマホしか入っていないので、歩くたびに物がぶつかり合う音がしていた。