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「今日は『時実道場』にお集まりいただきまして本当にありがとうございます……」
4月20日日曜日。
移転・新築された時実道場の一番奥の壁の上には前の道場からあった古い神棚と、その下には白い布で覆われた祭壇が新たに作られ、果物やお菓子、生魚といった供物が置かれていた。
真新しい木と畳の匂いがする道場には、この日を待ちわびていた幼稚園くらいの子供から白髪の老人までたくさんの人が集まって来ている。
「それでは、未来の柔道界を担う子供達の演舞披露です」
「「「やーっ」」」
新品の柔道着に黒帯を締めたミクの父親、時実鉄次師範が挨拶をしたあと、柔道着を着た就学前のちびっ子たちが道場の真ん中で大きな声を上げて挨拶をした後、礼法披露を始めた。
その後、小学生、中学生と年齢順に立ち技、寝技が披露され、子供達の親が自分の子供の姿をスマホやビデオで熱心に撮影している。
最後は師範と一緒に指導を行っている人達による、立ち技から足技、投げ技などの、試合を観ている様な迫力のある技披露が行われた。
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「おにぎりありますよー」「枝豆はここですー」「たこ焼きでーす」「ジュースまだありますよー」
挨拶と技披露が終わると、道場では集まった人々に食事が振舞われた。
道場の一角に長テーブルを置いて作られたフードコーナーには、赤飯、梅、鮭のお握りがそれぞれラップに包まれて大き目のお盆に並べてられている。
その横には紙コップに注がれた、コーラ、オレンジ、ウーロン茶やビールなどの飲み物。
他にも小さめの紙皿に盛られた枝豆と焼きたてのたこ焼きが並べられ、美味しそうな匂いが道場の中を漂っていた。
道場開き当日。
俺とトモは早朝から道場開きで振舞われる食事の支度を手伝うため、ミクの家の台所にいた。
と言っても、トモは天才的に料理が苦手なので任せるわけにいかない。
ミクが握ったお握りをラップにくるんだり、コップや皿を用意する下準備やゴミ捨てを担当。
俺は料理が得意なので、ゆでた蛸や長ネギを刻んでたこ焼きの準備をしたあと、そのままたこ焼きを作ることになった。ずっとガス台の側にいるから、朝から汗だくだ。
「ユメ、たこ焼き入れる皿持って来てくれ!」
「ハイなぁ!ユウ兄ちゃん☆」テクテクテク……。
「熱いからな。火傷しない様に気をつけろよ」
「うん分かったぁ!」トコトコトコ……。
「ユウ兄ちゃん、たこ焼き運んだよ」
「お疲れさん、コーラでも飲むか?」
俺は冷蔵庫からペットボトルを取り出すと、側にあった紙コップにコーラを入れ「ユメ」と呼んだ女の子に渡した。
「ありがとうユウ兄ちゃん」
俺から紙コップを受け取ったのは「時実夢愛」小学校3年生。ミクの妹だ。