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「今、高校の方に専用の防具の取り寄せと、公認練習場の申請をしているの。道場開き前に許可が下りるといいんだけど……」
ミクの話によると、ミクの父親は新築移転の手続きをする時に、ミクの受験に関係なく『RPS BATTLE』の公認練習場の申請を学校にしたそうだ。
公認練習場は幸命高校に在籍し、『RPS BATTLE』に参加する生徒なら誰でも使えるようにするらしい。
しかし今まで公認練習場の申請など無く、初めてのことなので学校側も慎重に手続きをしているそうなのだ。
「それは申請が通ってほしいな。いや、もしダメだと言われたら……ミク。 お前、全校集会で泣け」
「ちょっとユウ、なんで私が泣かなくちゃいけないの!?」
俺の発言がふざけていると思ったミクは、口をとがらせて反論をする。
「ミクの泣き落としなら、男子生徒が全員味方につきそうじゃん」
「アハハ。でも確かにミクちゃんなら可愛いから効果あるかもね」
「えっ……トモが、私を、可愛い……」
トモが何気なく言った『可愛い発言』に、ミクは顔を赤らめ激しく動揺する。
「ん?ミクちゃん、どうかした?」
ミクの目線が宙を舞い始めたことに気づいたトモが、不思議そうな顔をしてミクに声を掛ける。
おいミク、思考があっちの世界に行くな!
と、思った俺はテーブルの下にある自分の足を伸ばして、ミクの足首あたりを軽く蹴った。
「イッ……あっ、ゴメン、ちょっとお手洗いに行ってくる」
俺に蹴られてこっちの世界に戻ってミクは、椅子から慌てて立つと急いだ様子でお手洗いに向かった。
「うん、行ってらっしゃい…………ユウ、ミクちゃん急いでどうしたのかな?」
「あぁー、冷たいパフェ食べたから腹でも痛くしたんだろ?」
自分の発言でミクが照れていたと気づかないトモの質問に、俺はため息を吐きながら顔を左右に振って答えた。
「今は4月だし、節電でお店もあまり暖房を入れていないし、冷たいものを食べたら体の血流が悪くなるよね」
「…………だな」
俺の誤魔化しに全く疑いも持たないトモは、相変わらず真面目に医学的な解釈をしている。
「ところでトモは『RPS BATTLE』の作戦とか考えているのか?」
「勿論、例えばユウと僕が勝負した時、僕がじゃんけんで勝つ確率は1/3、引き分け1/3、負けが1/3で、仮に勝った場合、攻撃があたる確率は1/2だから……」
「トモすまん。俺もうすでに理解不能」
トモは有名大学に入れるくらいの難しい計算をしながら話しているので、俺にはまったく意味が分からない。
「あっゴメン、つまり最初のじゃんけんで僕とユウ、それぞれが勝つ確率はどちらも1/6なんだ。最初のじゃんけんで攻撃権を持ったほうが勝ちやすいってことだよ」
「ようは、先手必勝ってことだろ?」
「うん……まあ、そういうことだね」
トモの話を俺なりに解釈して話すと、トモはなぜか引きつった笑顔を見せ、言葉を濁すように答える。
なんか俺、間違ったことを言ったかなぁ……。
「って考えると、『RPS BATTLE』は腕力のある方が有利なんじゃねいか?」
「確かに一見するとそうなんだけど、先ずはじゃんけんで勝たないと攻撃権がないよね?」
「あー、まぁ、確かにそうだな」
トモは真面目な顔をしながら、更に話を続けた。
「どんなに丈夫な人でもじゃんけんに勝たない限り、相手を攻撃することができない。つまり、相手にじゃんけんで勝つ手を出すことが大事なんだ」
「うーん、どういうことだ?」
「じゃんけんはその人の意思や心理、生活パターンが反映されるんだ。例えば、『最初はグー』ってやってからじゃんけんをすることが多いよね?それが無いじゃんけんの場合、最初につい『グー』を出してしまう人が多いんだ。つまり、最初に『パー』を出すと勝つ確率が高くなるってことだよ」
「もしかして、トモはそこまで考えて『RPS BATTLE』に挑むのか?」
「相手の出方をどこまで把握するかによるけど、出場する人の試合を見て、じゃんけんを出す順番やパターンを覚えておくと少しは有利になるってことだよ」
相手の心理まで考えている、トモの真剣な話を聞いていると『RPS BATTLE』に並々ならない情熱を持っているのが分かる。
正直俺はそこまで考えていなくて、出たとこ勝負だと思っていたからだ。