3-5
「――お待たせ。なんか2人とも楽しそうだね」
ミクが決意を新たにしたところでトモがトイレから戻ってきた。
トモの姿を見たミクは慌てて右手をテーブルの下に隠した。
「おう、今『RPS BATTLE』の事を話していたんだ」
動揺しているミクを腹の中で笑いながら、トモが椅子に座るのを確認する。
そして俺はミクと話していたこととは全く違う話題を持ち出す。
「そのことなんだけど、ミクちゃんのお父さんはもう落ち着いたの?」
「うん。もう建物は完成していて、あとは畳が届いたら再開できそうだよ」
ミクの父親は整骨院の院長をする傍ら道場を開設していて、実はトモと俺は幼稚園の頃から柔道を習っている。
トモの父親とミクの父親は昔からの知り合いで、トモに護身術を身に着けるために道場に通わせたらしい。
俺はそんなトモと一緒に遊びたくて道場に通ったという、ちょっと不純な動機。
ちなみに俺もトモも柔道初段。ミクに至っては柔道三段の腕前で、見かけとは違ってめちゃくちゃ強い。
柔道界のアイドル、未来のオリンピック選手にならないかと誘われたミクだが、その手の話は頑として断っているらしい。俺から見ると良い話だと思うんだけど。
ミクの父親の整骨院は、トモの病院の近くで開院していた。
しかし患者の人数も道場で柔道を習いたい人も増えた為、去年の秋に高校近くにあった広い土地を購入して新築移転したのだ。
患者の数が増えたのはミクの父親の腕と人柄の良さだが、道場はミクが目当ての奴等がほとんど。
しかしミクの組み手の相手はミクの父親とその友人達と限定されていて、仲の良いトモや俺もミクの相手をしたことがない。
それでもミクの華麗な投げ技を見ようと、道場に通うものが後を絶たないのだ。まったく呆れる話だぜ。
俺とトモは道場の引越しと高校入試が重なったので、新築するまでの間は受験に専念して道場を休んでいた。
……それなのに今朝、高校に登校して分かったD組振り分けに俺はガッカリ。
「道場開きは4月20日の日曜日に予定しているの。簡単だけどお祝いの食事もあるから2人とも来られるかな?」
「せっかくだからその日は空けておけるようにするよ。ユウも行くだろ?」
「そうだな、久しぶりにミクの父さんと会えるし」
「『RPS BATTLE』を勝ち進むためには運もだけど、体力も必要だからね。ミクのお父さんと手合わせできるのを楽しみにしているよ」
ミクからの誘いに俺とトモは鞄からスマホを取り出すと、道場開きをの日程を登録した。
「そうそう、お父さんがね、道場とは別室に『RPS BATTLE 練習場』を用意するみたい」
「えっ、それマジか?実戦経験ができると助かるな。トモ」
「うんそうだね。その練習場も道場開きを同じ日からなの?」
学校でしかできないと思っていた『RPS BATTLE』がミクの父親が開く道場で練習できると聞いて、俺とトモは少し興奮した。