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「トモは嫌いな食べ物ってある?」
そんな俺のことなど全く気にせずに、弁当作りに気合の入ったミクが早速トモに質問してくる。
「特に嫌いなものはないけど、あえて言うならミョウガかな」
「どうしてミョウガは食べないの?」
「ミョウガを食べると物忘れがするって言うから、縁起が悪い気がするんだ」
トモそれは迷信だぞ。お前、変なとこ信心深いんじゃね?
それに弁当にミョウガを入れるヤツっているか?
「じゃあミョウガ入りのハンバーグとか、炊き込みご飯は作らないわね」
「あっ、でも作って貰うのにそんな我儘言って良いの?」
「だって嫌いなものを無理して食べても美味しくないじゃない?」
ミクは制服の胸ポケットからメモ帳を取り出すと、今の会話を書いていく。
ただなミク。ハンバーグや炊き込みご飯にミョウガは混ぜ込まんだろう?
その後も卵焼きの味付けなど、トモの好みを聞き出してはメモ帳に書き込んでいく。
こうしてミクのストーカー手帳にまたトモの事が記載されていった。なんて恐ろしい。
「ちょっとゴメン、お手洗いに行ってくるね」
ご飯を食べ終えたトモはそう言うと席を立ち、レストラン内にあるトイレに歩いて行った。
「なあ、一つ聞いてもいいか?お前、料理って得意だったっけ?」
トモが居なくなったのを見計らって、俺はミクに尋ねる。
ミクは俺の分もクッキーやケーキを作ってくれたことがある。
しかしところどころ焦げていたり、スポンジが固めだったりと、余り美味しくなかったからだ。
いくらトモが優しくても、お弁当が美味しくなかったらミクに失望するだろう。
「当たり前じゃない。言っておくけど、今までユウに食べさせたのは失敗作だもん」
ミクは片方の口端だけをあげる笑顔を浮かべながら答えた。
「そうか……それは安心だなって、オイ!俺はトモの毒見役じゃねぇ!?」
まったく。危うく右から左に聞き流すとこだったぜ。全くもってとんでもない女だ。
「ユウのおかげで、トモにはちゃんとした料理を渡せたわ。感謝してるよ♪」
「で、お弁当でトモの気を惹く訳か。さっきも言ったけど、マジ告ればいいのに」
良くも悪くもミクの頑張りに感心している俺は思った事を伝えた。
するとミクが少し俯いて真面目な顔になる。
「だって……トモに断られたら、ショックで今日みたく一緒にいられないもん」
「なーんか、『乙女なミク』って気持ちわりぃ」
俺はそんなミクを目の前にハァ~とため息をつくと、頬杖をついた。
「ちょっと。それどう言う意味よ?」
俺の言葉に目をキッと向けて、怒りを表すミク。
怒っていても可愛いんだよな――外見だけは。
言っておくけど、可愛い=好き、じゃないからね。
「本当のことだろ。イジイジしているお前なんて、全然らしくねぇよ」
「それって私に失礼じゃない」
ミクの声に怒りを感じるが、俺はそんなことなど全く気にしない。
「小さい時からお前の本性を知っているから言っているんだぜ。見た目と違って一生懸命頑張るのがお前のいいとこじゃん」
関わりたくないほどうざいところはあるが、一途にトモを思ってきた気持ちはよくわかるからだ。
トモは頭が良くて優しいイイ奴だが、天然かと思うほどミクの気持ちに鈍感だ。
ミクから動かなければトモは死ぬまでコイツの気持ちに気づかないだろう。
「女は度胸、愛に煌け、恋にときめけ、当たって砕けろ!」
俺は気に入って読んでいる漫画の台詞を思い出しながらミクにエールを送った。
「よし決めた!私『PRS BATTLE』を勝ち抜いて生徒会長になったらトモに告白する!」
「よしぃ、一度決めたら頑張れ!大丈夫だ。ミクなら問題ない」
俺の声援が届いたのか、ミクはテーブル上に置いた自分の右手を握りしめてガッツポーズを作った。