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「トモはステーキよりハンバーグが好きなの?」
ミクはちょっと首をかしげた可愛い仕草でトモに話しかける。
「ステーキも嫌いじゃないけど、ハンバーグの方が捏ねている分、手がかかっている感じがして好きなんだ」
「じゃあ、お弁当のおかずもハンバーグを作ってもらうの?」
中学校までは給食があったが、高校は給食がないので、明日からは学校に弁当を持っていかないといけない。
俺は料理が得意なので、すでに冷凍庫の中には弁当用に小分けしたオカズがいくつも入っている。
ちなみに明日はピラフと鳥の唐揚げ、カボチャサラダの予定。
俺っていつでもお嫁にいけそう。
「僕の両親は共稼ぎだからお昼は購買のパンでも買おうかな――『ダメよ』」
「エッ?」
トモが言い終わる前にミクの声が重なり、トモが少し驚いたような声を上げる。
ミクはしまった、という顔をしていた。
「だ、だって……せ、成長期なのにパンだけだったら体に良くないじゃない?」
「うーん……でも僕、早起きも料理も苦手なんだよね。その分、夕食をしっかり食べようかなって」
ミクの言葉にトモは顎に手を当て、少し考えるような仕草をしながら答える。
成績優秀のトモだが、家庭科の調理実習はまるでダメ。
小麦粉を塗して作るムニエルは塩をたっぷりつけた岩塩焼きに。
チャーシューを作るときは、タコ糸で肉同士を縫合してしまった。
どうやら天才的に料理を作るのが苦手らしい。人間、一つくらい欠点がないとな。
「あ、あのね、よ、良かったらトモの分のお弁当作ってくるけど……」
最後の方は小さな声になりながらも、ミクは精一杯自分の気持ちをトモに伝えた。
「えっ、いいの?大変じゃない?」
「ううん、お父さんのお弁当も作るし、2人分も3人分もそんなに変わらないから。大丈夫よ」
ミクの言葉に最初は驚きながらも、嬉しそうな顔をするトモ。
「あ、ユウにもお弁当作ってあげようか?」
トモに手作り弁当を渡す約束が出来たミクは、満面の笑みで俺に尋ねる。
その笑顔の裏がとっても怖く感じるのはなんでだろう?
「ユウの分のお弁当まで作るなんて、ミクちゃんは優しいね」
疑うことを知らないトモの純粋な言葉に、ミクの顔が少し赤くなる。
「俺はミクより美味しい弁当を作れる自信があるから大丈夫だ。問題ない」
ミクのことだ。俺のお弁当には失敗作を入れそうだ。
ここは、丁寧に断ったほうが俺の身の為だ!
「あ、あ……そう。ユウの分を作れなくてとっても残念だな」
笑顔を浮かべながらも面白くなさそうな声でミクは答えた。
「明日の昼休みは、4階の階段のところで待ち合わせをすればいいかな?」
「ああ、あそこで待ち合わせて、小ホールにあるテーブルで食べようぜ」
B組とC組の間にある小ホールなら、クラスとか関係ないから気兼ねなくご飯が食べられる。
「うんうん、クラスは違っても一緒に食べましょ♪」
お弁当を作るだけではなく、一緒に食べる権利までゲットする貪欲なミク。
ってか、ミクと一緒にいたら。俺、男子共に殺されるんじゃね?
平穏な学校生活が崩れるような気がして、背中に寒いものが走った。