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「トモは今年の生徒会役員を目指しているんだろ?」
「勿論、お父さんも1年生で生徒会長になったから、僕も頑張りたいんだ」
トモは欲しいおもちゃでも見つけた時のように目をキラキラさせて答える。
「うん、私も今年の女子生徒会長を目指しているの☆」
「大変だけどお互いに頑張ろうね」
誰も問いかけていないミクが、トモの笑顔にうっとりしながら話す。――だからぁ、そこまでトモに合わせなくってもいいだろう。マジでうざい。
心の中でそうミクに呟くも、実際は口に出さないチキン――いや、心優しい俺。
まったくやってられないぜと、肩をすくめてレストランの窓から外を眺めようとした。
「お待たせしましたぁ、ご注文の品をお持ちしました」
可愛らしい声が聞こえてきたので、その方向を見ると、ウェイトレスが料理が入っているワゴンを運んできた。
「鉄板が熱くなっていますので、気をつけください」
そしてワゴンから次々と料理を出してテーブルの上に並べていくと、レシートを置いて立ち去っていった。
「わぁ、美味しそう♪」
「ここのハンバーグは久しぶりだよ」
トモとミクの目の前には、鉄板の上でジュージューと音と熱さを感じるハンバーグが置かれた。
「おっ、美味っそー」
俺の目の前には、「チキンステーキ」が鉄板の上でジュワァァッと音と湯気を上げていた。
鉄板の他に、スープ、サラダ、皿に盛られたご飯も目の前にある。
これで500円とは本当にありがたいぜ!
入学式で緊張していた俺達だが、目の前の美味しそうな食事を見ると、ギューッとお腹が空いてくるのが分かる。
「「「いただきまーす」」」
俺たちはフォークやスプーンを持って、ランチを食べ始めた。
「ミクちゃんは甘いものも食べたいの?」
パフェの写真が写っているメニューを見ていたミクに向かって、トモが優しい視線を走らせる。
「あ、うん。トモは甘いものは好き?」
「うん好きだよ。糖分は体に入ると、ブドウ糖に変わって血液中を通って全身を巡ったあと、余ったブドウ糖は再び肝臓に戻って……」
おい、トモの好きは医学的に好きだってことかぁ?
「さすがトモは物知りね」
「あ、いや、そんなことないよ」
トモの解説にハンバーグを食べている手を止め、目の前にいるトモをうっとりと見つめるミク。
俺達の席の周りに座っている、全然知らない人も窓側にいる俺に気づかないようだ。
トモとミクを見て「カレカノかな?」「彼女可愛くない?」と言った声が聞こえてくる。
俺ってここにいていいんだろうか?
トモとミクの雰囲気にイマイチ入れなくて、無言のままステーキを食べ続けた。
「ユウ、食べるの早くない?よく噛まないと、脳の満腹中枢が刺激されなくて……」
肉を頬張っていた俺に気づいたトモが、やっと俺に話かけてきた。寂しかったんだぞぉ。
だが、向かいに座っているミクにそんなことを悟られたくない。
「そぉっかー?トモの方こそ早く食べないとハンバーグが冷めちまうぞ」
「あぁそうだね。ハンバーグの脂肪は冷めると固まって胃での消化が悪くなるし、なにより美味しくなくなるからね」
そう言うと、トモは持っていたナイフとフォークを使って、再びハンバーグを食べ始めた。