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「明日のクラスオリエンテーションの司会を天樹くんにお願いしようかと……5分ほど打ち合わせをしてもよろしいですか?」
トモだけではなく、俺やミクにも丁寧な言葉とすまなそうな顔を見せる謙虚な天堂先生。
うーん、鈴木先生とは天と地、雲泥の差、月とスッポンって言葉がピッタリ当てはまるな。
「トモ、5分くらいならここで待っているぜ」
「悪いね。あっミクちゃんはどうする?良かったら一緒にレストランで、ご飯食べない?」
午前中で入学式が終わるので、俺とトモは近くのファミレスで昼ご飯を食べる約束をしていたのだが、トモはミクにも声をかける。まったく優しすぎるぜ。
「えっ、いいの?じゃあ私もここで待ってるわ♪」
トモから誘いの声をかけられたミクは嬉しそうな声を上げた。
また熱があるのかと思うくらい顔が赤くなってきてるぞ。
「では、少しだけ天城くんをお借りしますね。A組に戻りましょう」
「ハイ先生。ユウ、ミクちゃん待っていてね」
天堂先生とトモはA組の教室に戻っていく姿を、ミクは恥ずかしそうにしながらも、ちょっと切なそうな目で追っていた。
「ミクちゃん、顔色悪いよぉー。病み上がりなら帰ってイイ――ドホォッ!」
「ユウあのね。『人の恋路を邪魔する奴』はどうなるんだっけ?」
トモの口調を真似して話しかけると、俺の方に体を向けたミクは素早く俺の鳩尾に自分の右拳を入れた。
それまでの天使の笑顔から一転、怒りまくった魔女のような顔を俺にだけ向ける。
その間のスピード約0.5秒。すでにいつもの天使の笑顔に戻っているミクに、廊下でうろうろしている他のヤツラからは俺とミクが仲良く話をしているようにしか見えてないだろう。
まったくこの女、本当に凶暴だ。
「ゲホゲホッ……チッ、トモと男同士。気兼ねなく飯を食えると思ったのによ」
「フン、私がこんなチャンスを逃すわけないでしょ?まさか入学早々、トモと一緒のランチを食べられるなんて、 夢のようだわぁ……邪魔者がいるけど」
怒ったかと思うと、一人で照れまくり、その後ぶつくさ呟く。……やっぱりコイツうぜぇ。
「そんなにトモのことが好きなら、告ればいいのに。あいつ鈍感だぞ」
俺は呆れた声を出しミクに尋ねる、が。
「な、な、何言っているの?美少女が、じ、自分から告白するわけないでしょう?」
ミクは必死の形相になると、左右に顔をブンブン振りながら俺の言葉を否定する。
しかし相変わらず、自分で自分のこと美少女とか言うか。全く持ってうざい。
おまけにトモと俺の約束に入り込んでくるわ、人の鳩尾を殴ってくるわ、油断ならない。
トモを待っている間、なんでコイツと一緒にいなきゃいけないんだぁ!?
と、思ったその時!
ちょっとした仕返しと、トモが戻ってくるまでの暇つぶしに、ミクをからかうことを思いついた。