2-8
「待たせたね。D組は早く終わったんだ」
「大した待っていないけど……」
今朝の約束通り、4階にある玄関に続く階段の前でトモを待っていた俺。……だけではなく。
「トモ、久しぶりだね☆」
いつの間にか俺の左横に、ミクがしっかり並んでいたのだ。
ってか、なんでコイツがここにいるんだよぉぉぉーっ!?帰宅したんじゃなかったのかよ!!
「ミクちゃん久しぶりだね、元気だった?」
「うん、ありがと。あのね、試験当日はトモのお父様に無理をさせてゴメンナサイ」
ミクは横にいる俺のことなど一切無視して、視線を下に移すとトモに向かってちょこんと頭を下げた。
その可愛らしい仕草に、帰宅を急いでいたはずの男子生徒達の足が止まり、ミクにデレっとした視線を送る。
ところで、ミクが何故トモに頭を下げたかと言うと……。
入学試験当日の朝。高熱が出たミクを心配した父親がトモの家に直接電話したそうだ。
知らせを聞いたトモの父親が車を運転してすぐに往診に向かいミクに解熱剤の注射を打つと、家に戻るついで だからと言って自分の車に乗せ、この高校まで連れて行った。
そして高校側にミクに高熱があることを伝えると、保健室で受験できるように掛け合ったのだ。
こうしてミクは保健室で受験をしてD組ながらも、トモと同じここ幸命高校に合格することが出来た。
トモの優しい性格は父親譲りなんだなと、改めて思う。
「ううん、最初電話が来た時は心配したけど。父さんもミクちゃんが元気になったって聞いたら安心するよ」
笑顔を浮かべるトモを目の前にして、顔に両手をあて頬を赤くするミク。
うん、トモのことが好きだって誰が見ても分かりすぎるくらい顔に出ているぞ。
まったく。トモを目の前にすると、どんだけ乙女になるんだ?
「ミクちゃん?顔色悪いよ。もしかしてまだ病み上がりなの?」
顔を赤らめているミクに、心配そうに声をかけるトモ。
だーかーらー。トモ、お前はどんだけ鈍感なんだよぉぉ!
さっきまで赤くなっていたミクの顔が冷静になってガッカリに変わっていく。
「――あぁ、天樹くん。そこにいたんですね」
「天堂先生、どうかしましたか?」
その時、俺達の側にA組の担任、天堂先生が優雅な物腰で近づいてきた。
さっき天堂先生を拝見した時はステージの上だったから少し離れた位置でしか見れなかったが、こうして間近 でみても『同じ人間かぁ!?』と思うくらい顔も仕草もカッコイイ!しかも男なのになんかいい香りがするぞ。
壇上の先生を見た時は敗北感だったが、今度はそれに屈辱感まで感じてしまう。
スラッとした天堂先生の姿に、今度は帰宅を急いでいたはずの女子生徒達の足が止まり、先生にポーッとした視線を送っている。
しかしミクはトモしか目に入っていないのか、全く普通の顔で先生を見ていた。