2-7
「ディフェンス、リプレイ」
審判を努める天堂先生の声は冷静だ。
青の後藤はジャンケンで勝って、相手を攻撃することができたが、白の田中に防御されてしまった。
防御が成功した時点で、再試合となる。
ジャンケンから攻撃までの時間は約数秒。
しかし、デモ試合とは思えない緊迫感が体育館全体に広がり、ほとんどの生徒が試合に釘付けになっている。
「両者セット!……RPS GO!」
天堂先生から合図が出た。
田中グー、後藤チョキ。白、田中の勝ち、今度は田中が攻撃権を得た!
白、田中の電光掲示板に「Attack」と表示される。
田中のジャンケンで出した腕が、そのまま真っ直ぐ後藤に向かっていく!
ドンッ! ブーーーーッ!!!
何かがぶつかるような音と大きな機械音が、体育館のスピーカーから流れた。
その瞬間。白、田中の電光掲示板には「Hit!!!」と表示された。
「ヒット、勝者!白、田中!」 ワアァァァッ
勝者を告げる天堂先生の声が流れると、2年生の席から大きな歓声が上がった。
勝負を終えた田中と後藤は握手を交わすと、天堂先生を真ん中にして並ぶ。
「「ありがとうございましたー!」」
同時にお礼を言うと、俺達に向かって深々と頭を下げる。
その姿に歓声をあげた2年生だけではなく、体育館にいた全員が拍手をした。
礼を終えた天堂先生と2人がステージから降りると、十文字生徒会長がステージに上がった。
「審判役の天堂先生、選手は役員補佐の2年生田中純一と後藤歩でした。3人にもう一度暖かい拍手をお願いします」
十文字生徒会長の言葉で、体育館の中に大きな拍手音が響いた。
「――新入生の皆さん、『RPS BATTLE』で頂点に立ってください!以上」
『RPS BATTLE』の説明を終えた十文字生徒会長は深々と頭を下げると、壇上から降りた。
「――以上を持ちまして、入学式を閉会します。1年生から順に自分の椅子を持って教室に戻ってください」
「皆、生徒会長からの説明で何か質問はあるか?」
冊子と椅子を持って教室に戻った俺たちに担任の鈴木先生から声が掛けられた。
すると一人の生徒が手を上げて、先生に質問をする。
「先生ー、どうして分かりやすく『ジャンケンバトル』って言わず『RPS BATTLE』って言うんですか?」
「…………それは……ここの創設者が『横文字』が好きだったからだろう……うん、きっと、ソウダ……」
先生、目をキョロキョロさせながら質問に適当に答えるんじゃねぇ!
鈴木先生の答えを聞いた途端、手を挙げていたもの達が一斉に手を下ろした。
「ん?お前らみんな同じことを知りたかったのか?」
空気を読めない先生の声だけが教室に流れていく。
「まあ、特に質問がないのなら以上でHRを終了するぞ。起立、礼。みんな、お疲れさん!」
鈴木先生は教壇の上にあった名簿や資料を持ち、生徒に軽く頭を下げると教室から出て行った。
「ハァ……分かんないことがあったら他の先生に聞くかあ」
「そうだな。授業の終わりにでも質問してみるか」
「天堂先生なら丁寧に教えてくれそう~」
鈴木先生が教室から消えたあと、俺達D組のクラスの中では失礼な会話が飛び交っていた。