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キンコーン、カンコーン……
その時、休憩時間の終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響いた。
「そんなに赤い顔するなよ。照れているってモロバレだぞ」
何を勘違いしたのか、コウジは俺の右肩を軽く叩き、笑いながら話す。
「いやっ、だから、頼むっ、俺の話をっ――」
その時、朝と同じように廊下から落ち着きのないドタドタと歩く音が聞こえてきた。
「おっ、先生が来るから続きは後でな!」
「おいおいおい……勘違いだってっ!」
捻っていた体を直して、コウジは教壇の方に体を向けてしまった。
だからミクに絡まれる嫌だったんだよぉー!!
俺は心の中で涙を流すが、おそらく誰もそれに気づくことはないだろう。
ひどく落ち込んできた時に、ガラガラガラーッと教室の扉が勢いよく開いた。
「それでは皆さん、入学式を始めます。全員自分の椅子を持って、出席番号順に廊下に並びなさい」
走ってきたのか、鈴木先生は額の汗を持っていたハンカチで拭きながら教室に入ってくるなり、俺達生徒に指示を出した。
「「「ハーイ」」」ガタガタッガタッ
各自が自分の座っていた椅子を持って、廊下に歩きだした時。
「と、と、時実さん、椅子、持ちますよ」
一人の男子生徒が、椅子を持って廊下に出ようとしているミクに声を掛ける。また始まったか。
「ううん、これくらい大丈夫。ありがとう」
突然話しかけられたミクはちょっと目を大きく見開いたが、すぐに天使のような笑顔を浮かべた。
「や、あの、是非、時実さんの椅子を運ばせてください!」
「俺に運ばせてください!」「いや、俺が運びます!」
ミクの笑顔に真っ赤になりながらも、必死で椅子を運びたいと次々と懇願する男子生徒達。
そんなに椅子を持ちたいのなら、俺のも持ってほしいんだけどなぁ。
その様子にミクと同じように椅子を持っていた女子達が彼らに冷ややかな視線を送る。
「ありがとう。でも、私だけ楽をする訳にいかないから気持ちだけもらっておくね」
ミクはそう言うと、ヨイショと小さく呟き椅子を持って廊下に並んだ。上手く交わしたな。
「時実さんって、マジ可愛くて謙虚~」
教室から出て行くミクの後ろ姿を見る男子生徒達の顔は女神を崇める民衆のようになっていた。
そんなクラスメートを見ながら、お前らがミクにバッサリ振られるのは時間の問題だな。と、俺は心の中で呟いた。