お菓子のおまけっ!
「ユウ兄ちゃん、トモ兄ちゃん、見に来てくれたですか?」
「ユメの踊り、楽しみにしているからな」
時は流れて、俺達は高校2年生になった。
札幌市内は今日から「よさこいソーラン祭り」が始まり、大通りにはたくさんの観光客や見物客で溢れている。
実はトモの父親が経営する天樹総合病院のスタッフも、このよさこいソーラン祭りに参加している。
そして今回ユメはちびっ子メンバーの一員で踊るんだ。
大漁旗のような鮮やかな半被を着て、顔にフェイスペイントをしたユメは……めっちゃくちゃ可愛いんでないかい!
ユメを見る俺の顔が自分でも蕩けてくるのが分かるくらいだ。
「――チーム天樹、リハーサルを開始します……」
俺がユメに見惚れていると、拡声器から呼び出しを掛ける声が聞こえた。
「あっ、リハーサルが始まるですぅ。じゃあ行ってきますですぅ」
「おう、ここで見ているから頑張ってこいよ!」
「ハイなぁ、頑張るですぅ~☆」
ユメは俺とトモに手を振ると、リハーサルが行われる場所に走っていった。
「トモ、遅くなってごめんね」
「大丈夫だよ。地下鉄混んでいたんだよね?」
ユメと入れ替わるように、ミクが少し息を切らしながらやってきた。
膝上のワンピースを着たミクを見たトモの顔が赤くなっている。
今までだってミクの私服を見てきたのに、付き合った途端、照れることはないだろう?
「ユメはとっくにリハーサルに行ったぞ。ほらそこ……に……?」
ユメの方を指差しながら視線を走らせた俺は、そこで固まる。
「ユウ、どうしたの?……ユメ、なにやってるの?」
リハーサルで踊っているのかと思いきや、ユメは踊りの列から少し離れていた。
そしてユメの隣には札幌では有名なアナウンサーがマイクを持って立っており、テレビカメラがユメに向いている。
「ユウ、ワンセグにユメちゃんが映ってるよ!」
「えっどれどれ、うわっマジか?」
トモが見せてくれたスマホのワンセグの画面に、今ユメがインタビューを受けている様子が映し出されていた。
**********
「こんにちはー、お名前を教えて頂けてますか?」
「時実夢愛ですぅ」
「ユメちゃんですかぁ、可愛いですね。よさこい参加は初めてですか?」
「はい、初めてですぅ」
男性アナウンサーの質問に、笑顔でハキハキと受け答えするユメ。
するとユメの周りに若い男性の姿が多くなってきて、スマホやデジカメでユメを撮影している。
その姿を見た俺は……イライライライライライライラ。
「それではインタビュー終わります、ユメちゃん、どうもありがとうね」
「ありがとうございますですぅ」
ユメのインタビューが終わり、男性アナウンサーからユメが離れようとした時。
「その子、ちょっと写真撮らせて~」
中学生くらいの男子がユメに近づこうとした。
「ユメ、ミクが来たぞ」
「ユウ兄ちゃん、お姉ちゃんが来たんですかぁ?」
俺がユメの側に来ると、ユメは俺の腕にしがみついてきた。
「あ、あの~、写真……」
「あ゛あ゛?」
ユメに近づこうとした男子中学生がまた、声を掛けてきたので、思いっきり低い声で返す俺。
「あっ、いえ、何でもないっす」
俺にビビッタのか、そいつは慌てて人ごみの中に消えていった。
**********
「本当、ユウってユメのことになると周りが見えなくなるわね」
「ハハッ、それだけユメちゃんが可愛いってことだよね」
俺がインタビューを受けているユメの側に駆けつけて行った頃、それを見ていたトモとミクが笑いながら話していた。
「お姉ちゃん、遅刻ですよぉ」
「地下鉄が混んでいたの、遅くなってゴメンね」
リハーサルが終わって俺たちと合流したユメがミクに突っ込みを入れる。
「それにしても可愛い半被ね。ユメに似合っているわ」
大漁旗をデザインいた半被をみて、ミクが笑顔を浮かべると、ユメもニィーっと笑みを返す。
「お姉ちゃんの勝負下着には負けますですぅ♪」
「バ、バカ、ユメ、な、何を言うの!?」
ユメの爆弾発言に、ミクの顔が途端に真っ赤になる。
トモは飲んでいたジュースを咽まくっている。
まーた、変な雑誌を見ていたなミク。
俺は冷ややかな目でミクを見る。
「だってお姉ちゃん昨日、しろ……ウグググッ…!」
「ユメ、あっちに白いとうきびが売っているから買いに行くわよ」
ミクはユメの口と体を手で押さえて、屋台の方に引っ張っていった。
「……トモ、お前の好きな色って白か?」
「そういうユウは何色が好きなんだ?」
俺達はミクとユメが消えていった方向を黙って眺めていた。