8-19
「西郷さん、立派でした。お疲れ様」
「……私が……負けた……」
西郷の頭に手をやり、慰めるように天堂先生が声を掛けるが、西郷は呆然としていた。
「おう時実、やったな!」
「ちょっと先生、髪の毛グシャっとしないでください!」
「悪い悪い……よく頑張ったな。おめでとう」
「鈴木先生、ありがとうございます」
防具マスクを外した途端、笑いながらミクの頭を掻き回すように撫でた鈴木先生。
しかしその目は真っ赤になっていた。自分の教え子が女子生徒会長に決まって本当に嬉しいようだ。
「時実さん、おめでとうございます」
「十文字生徒会長!?」
鈴木先生とミクが喜んでいるところへ、十文字女子生徒会長が大きな花束を持って現れた。
「この8ヶ月間、よく頑張ったわね。本当におめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「大変なのはこれからよ。来年の『RPS BATTLE』はあなたにかかっているから、頑張ってね」
「ハイ、一生懸命頑張ります!」
そう言いながら、十文字生徒会長はミクに花束を渡した。ミクは笑顔で花束を受け取った。
十文字女子生徒会長とのやり取りを観ていた観客席から、再びミクへ熱い声援が飛ぶ。
「「未来!」」「「未来!」」「「未来!」」「「未来!」」
「「未来!」」「「未来!」」「「未来!」」「「未来!」」
「「未来!」」「「未来!」」「「未来!」」「「未来!」」
……ってすごすぎだぞ、オイ。
「西郷さんも8ヶ月間お疲れ様。素晴らしい闘志だったわ」
「……ありがとうございます」
決勝戦なので、西郷もバトルスペースに残り、十文字女子生徒会長から労いの声が掛けられた。
しかしミクに負けた西郷の表情は固く、少し青ざめていた。
「これで女子生徒会長決勝戦を終了します。休憩後、男子生徒会長決勝戦を行います」
バトルスペース上で大柳校長が司会を終えると、ミク達がバトルスペースから下りてきた。
「おめでとうミク!」「ミクちゃんおめでとう!」
「ありがとう!トモ、ユウ!ホントにありがとう!」
俺達の顔を見たミクの目からぽろぽろと涙がこぼれる。
夢にまで見た女子生徒会長になれるんだから嬉しいはずだ。
その時、祝福を壊すような声が控え席に響いた。
「ちょっと、天樹くん!どういうこと!」
「西郷さん?」
俺達がミクを慰めているところへ西郷がやってきてトモに迫った。するとトモは、俺やミクより一歩、西郷に近づく。
「ずっと応援するって、約束したじゃない!」
「……ミクちゃんとユウは下等生物でもDランクでもない。僕の大事な友人なんだ。2人をバカにするような人を応援する気はない」
「何ですって!?」
「人をバカにしたり見下しするような最低な人を、僕は心から応援なんてできないって言ったんだ」
トモは冷たい目で西郷を睨むように話す。普段のトモからは考えられない態度だ。
女の子に対してトモが厳しいことを言うのは、幼稚園の時以来だな。あの時は確か――。
「フン、今年は負けたけど来年……同じセリフが言えるかとっても楽しみにしているわ!」
西郷はそう言うと、足早に更衣室へ立ち去って行く。俺達3人はそんな西郷を残念な気持ちで見送った。
「じゃあ、私ここで2人を応援しているから……頑張ってきて!」
「ミクちゃん、ありがとう」「頑張ってくるぜ!」
トモと俺はミクと言葉を交わすと、バトルスペースに向かった。