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「では次、出席番号8番」
「ハイ」カタカタッ
教室の中に可憐な声が響き渡り、俺以外の男子生徒が声のする方に釘付けになる。
「喜多山中学校から来ました、時実未来です。よろしくお願いします」
ミクは最高の笑顔をクラス中に振り撒いた。
「「「か、可愛い~」」」
やっぱり、こうなるか。
一部の男子生徒から、TVのアイドル総選挙で第1位になった女の子でも見ているかのような熱い視線や声が上がった。
その声にテへッ、と言いながら小首を傾げて微笑むミクの仕草に、男子生徒だけではなく女子生徒まで羨望の眼差しを向ける。
みんな天使のような悪魔の笑顔に騙されるなぁー。俺にとってはマングース並みの天敵なんだ!!
……と言う、俺の心の声が皆に届く訳がなく。
そのまま自己紹介が続き、最後の生徒の挨拶が終わったところで教室内にチャイムの音が響いた。
キンコーン、カンコーン……
「おぉ、ちょうどよく終わったな。これから10分間の休み時間に入る。出すものを出したいやつは今のうちに出しとけよ」
先生はそう言うと、ドタドタと足音を立てながら教室から出て行った。
先生。そこはあっさり『トイレ』とおっしゃってください。と、心の中で ちょっと下品なオッサン先生に突っ込みを入れてしまう。
その時、俺の前の席に座っていた男子が体を捻って、俺の方を向いた。
「オレ、根本浩二。みんなコウジって呼んでいるんだ、よろしくな」
俺より小柄で、少しボサボサとした黒い髪をした少年っぽい顔をした根本 浩二と名乗った男子が話かけてきた。
「オレは三上有利。ユウでいいよ」
「なぁ、ユウは『生徒会長』を狙っているのか?」
コウジはニヤっと笑いながら俺に聞いてきた。
「そういうコウジも『生徒会長』になりたいのか?」
「イヤ、俺は毛筆四段、硬筆三段だから『書記』になりたいんだ」
「へぇ凄いな。それは書記になれるといいな。いや、お前ならなれるよ、頑張れっ」
自慢するように言うのではなく目を輝かせながらサラっと自分の夢を語るコウジに、俺は素直にエールを送る。
「お前、イイ奴だなぁ~。だからあんな可愛い子と仲良しなんだな」
コウジは嬉しそうにそう言うと、俺達から少し離れた斜め前の席に座って男どもに囲まれているミクを指差した。
今、なんか一番聞かれたくないことを言わなかった?
「チョッ、待て。アイツとはマジで全然、これっぽっちもぉ、関係ないから!」
「いいって、照れなくても。ライバルが多そうだけど、頑張れ☆」
「だから、俺は関係ないって。そういうお前だって、ミクに関心あるんじゃないのか?」
「隠さなくてもいいよぉ。俺は違う高校に彼女がいるんだ、時実さんほど可愛くないけど。」
「いいなぁ、リア充で……って俺、ホントに気持ちオープンにしているよぉぉ」
思わず必死で否定するが、コウジには全く俺の気持ちが伝わらない。なんでなんだぁー!?




