プロローグ
「これより決勝戦を行います!」
「待ってましたぁー!」
マイクから流れる司会者の興奮した声にワアァァと、観客も歓声を上げる。
観客から少し離れた場所。暗闇に包まれていたところにスポットライトが二つ、左右離れた場所に照らされる。
そこには二人の人物がそれぞれの場所に浮かんでいた。
「行け、行けーっ」「負けんじゃねーぞ!」
真っ白な光の中にいる二人の姿を見た、観客の歓声が一層大きくなる。
ついには二人の名前を呼ぶ、悲鳴のような声援が館内を飛び交う。
「ファイト、ファイト!」
「ファイト、ファイト!」
やがて歓声が一斉のリズムを持ったコールに変わり、それに合わせた拍手も鳴り響く。
しかし、二人の人物は歓声など耳に入らないのか全くそれらを気にする様子は無い。
互いに近寄ると向かい合い、拳を宙に上げゆっくりと互いの拳を合わせた。
その表情はどちらも穏やかだが、目の奥には熱い闘士が燃えているように見える。
二人は合わせた拳を一旦下ろすと息を吐き、これから行われる闘いの体制に入った。
「ファイト、ファイト……ファイト…………ファイト…………」
二人の様子を見た観客達の声が自然と静まっていき、今かと試合開始の合図を待ちかねていた。
「さあ、三百六十人の頂点にたつのはどっちだぁ! R・P・S、GO!(アール・ピー・エス、ゴー!)」
司会者の声が会場中に響いた時――二人の両腕が動いた。
「ウオォォォォ!!!」
数十秒後。館内から震動にも近い歓喜の拍手と声援が観客達の中から湧き上がった。
どこから撒かれているのか、桜色の綺麗な紙吹雪が会場中をひらひらと舞いはじめる。
この時、野外では空から降ってきた雪が静かに建物の周りを舞っていたが、館内だけは春を越え、夏のような熱気を帯びている。
しかしこの八ヶ月もの長い間の苦しみ、挫折、死闘を乗り越え、激戦を終えた二人はスポットライトの下で涙を流しながら無言で抱き合い、肩を叩きあい、握手を交わしながら互いの健闘を称えあっていた。
観客の中に二人の勇姿を最後まで見届けた一人の少女が口を両手で押さえ、静かに涙を流していた。
彼女もまた、自分との戦いに苦しみ悩み、そして立ち上がってきた。
大歓声と紙吹雪の中を、更に大きな声がマイクから流れた。
「おめでとーう! 頂点に立った優勝者は……!」