3話 俺の努力はいったい‥
目を覚ますと、魔物死骸が山となって積まれているのが目に入った。
「蟻達、随分と頑張ったんだな。」
死んでいる魔物を見ると一匹一匹はそこまで大きな獲物ではない。しかし、夜通しの狩りで集まった魔物の死骸はかなりの量に達していた。塵も積もれば山となるとは正にこのことか。
死んでいる魔物の種類は実に多種多様だ。虫のような形態のものから小動物のようなものまでいる。
「アリス、ステータスを見せてくれ。」
『了解。』
《雪兎》
Lv:24
種族:混沌蟲
特性【無限進化】
スキル【魔蟲の創造】
創造可能種
《魔蟻》
《兵隊魔蟻》
《酸魔蟻》
《甲殻蟲》
残存蟲数
《魔蟻》…8匹
《兵隊魔蟻》…3匹
『残存蟲数という欄も加えておいたわよ。』
「ありがとう、助かる。」
しかし、蟻の数は半分ほどになってしまったか。いや、半分の犠牲でこれだけレベルアップするなら悪くない。寧ろ蟻達はよく頑張ってくれたと言って良いだろう。
創造可能種も二つも増えた。それに蟻ではない種族は初めてだ。
「今日は【狂った力の追求者】も孵してみるか。」
これで大幅な戦力の増強が見込めるはず。
俺は一刻も早く強くなりたい。
蟻達が帰ってくるのを待つ間に、【狂った力の追求者】を孵すことにする。
「どうすればいい?」
『【魔蟲の創造】と同じ行程で大丈夫よ。』
「創造、種族は【狂った力の追求者】、数は一。」
目の前に卵のようなものが現れ、そこから幼虫が這い出てきた。幼虫は既にアギトを持っており、体も俺と同じくらいの大きさを誇っている。
「キィィィ!!」
【狂った力の追求者】長いので名前をクロシアと名付けることにしたこの蟲、産まれた瞬間、叫び声を上げながら死骸の山に突っ込み、それらを食らい始めた。
「やめろ!!」
俺が命令しても止まらない。
クロシアの食欲は凄まじく、このままでは食糧を全て食われてしまいそうな勢いだ。
『戻れ、と命令しなさい!!』
頭にアリスの声が響く。俺はその声に従い、クロシアに命令した。
「戻れ!!」
するとクロシアは消え、あとには食い散らかされた死骸の山だけが残った。
『どうやら、【狂った力の追求者】は召還獣扱いらしいわね。
でも、ユキトの言葉は聞かないみたい。雪兎に牙を向くことはないだろうけど、厄介ね。』
「召還獣?」
『そう。使役した魔物のことをそう言うの。つまりこれはユキトの創造した魔蟲とは扱いが別ってわけ。
多分、ユキトのレベルが上がれば言うことも聞いてくれるんでしょうけど、今は困った暴れん坊ね。
因みに、この子が倒した魔物も半分はユキトの糧となるわよ。』
「なるほど、使いどころが重要なわけか。」
だが、その分強力な戦力になる、と思いたい。これで実力も微妙だったら本当に使えない子だ。
蟻達が全員帰還したところで、行動を再開する。
まずは帰ってきた蟻達に腹一杯まで飯を食わせる。頑張ったご褒美だ。というか、魔蟻達も腹がすくと動きが鈍くなるので、それを防ぐという打算もある。
しかし、蟻達が満腹まで食べても、死骸の山はかなり残っていた。
「なら、遠慮なくいきますか。」
まずは《酸魔蟻》を創造する。
現れたのは尻尾が大きく反った魔蟻。大きさはただの魔蟻とあまり変わらない。多分、その尻尾から酸を出し、相手に当てるのだろう。
試しに近くの岩に向かって発射させると、岩の表面が溶けた。
この酸魔蟻は、魔蟻の二倍程の体力消費で創造できた。
次に創造したのが甲殻蟲、大きさは魔蟻の二倍ほどで容姿はダンゴムシに近い。しかし、丸くなることはできないようで、ひっくり返されたら終わりだ。その変わり、外部からの攻撃には強く、いくら攻撃を受けても余裕で耐えきるだろう。
この甲殻蟲だが、創造には魔蟻五匹分の体力を要した。
追加で魔蟻を二十匹、兵隊魔蟻を四匹、酸魔蟻を三匹、甲殻蟲を四匹、創造した。途中、失った体力は周りにある死骸の山から補充した。
そして、新しく産みだした兵隊魔蟻と魔蟻は昨日と同じように命令し、外に出す。
昨日の生き残りと新しく産みだした蟲達を精鋭部隊として引き連れ、俺も外にでた。
俺の引き連れる魔蟲達はこんな感じだ。
《魔蟻》…8匹
《兵隊魔蟻》…3匹
《酸魔蟻》…4匹
《甲殻蟲》…5匹
「アリス、今の戦力でギリギリ勝てそうなのが近くにいるか?」
敢えてギリギリと言ったのは、その方が早く強くなれるからだ。
『近くにブラックマウスがいるわ。』
「案内してくれ。」
というわけで、アリスについて行く。
途中、超巨大な魔物を見かけたが、全力でスルー。あんなのに今、勝てる筈がない。
でもいつかは、あいつにも勝つ。俺はそう心に誓い、アリスを追う。
『あれよ。』
そこにいたのは昨日のワームよりも更に巨大なネズミ。体長は四十センチ程で俺の十倍はある。
「兵隊魔蟻は足を狙え。酸魔蟻は目に向かって酸を浴びせろ。甲殻蟲は胴体だ。魔蟻は他の蟲の邪魔にならないように攻撃しろ。
ゆけ!!」
俺の精鋭部隊はぞろぞろと動き出し、ブラックマウスと接触した。向こうは一瞬驚いたようだが、こちらが蟲だと分かった瞬間、嬉々として襲い掛かってきた。
まず、ブラックマウスはその巨大な前足で最前線にいた魔蟻を一匹潰した。魔蟻はその攻撃で呆気なく死亡したが、その攻撃のお陰で他の蟲達は無事、ブラックマウスに張り付くことができた。
兵隊魔蟻が足に噛みつき、動きを鈍らせる。ブラックマウスは足に走る激痛を取り除こうと、足を振るが、兵隊魔蟻は剥がれる気配を見せない。
更に胴体まで上がった甲殻蟲は胴体にしがみつくと、甲殻で隠れていた鋭い足でブラックマウスの皮膚を切り裂く。
酸魔蟻はブラックマウスの攻撃範囲外から酸を発射し、既にブラックマウスの片目の視力を奪っていた。
魔蟻は他の蟲がいない耳や尻尾などに噛みつき、尻尾から毒を注入している。
「…まずいな。」
確かに順調な滑り出しではあるが、敵の図体がデカい為に致命傷には至っていない。毒だって、この大きさの敵相手では効きが悪いだろう。
彼我の戦力差を見誤ったか?
いや、今はそんなことを言っている場合ではない。強くなるためには勝たなければいけないんだ。
しかし、そんな俺の思いも虚しく、蟲達は徐々に追い詰められていく。
ブラックマウスが自らの足を地面に叩きつけ、足に食らいついている兵隊魔蟻を潰しにかかっている。現にもう一匹の兵隊魔蟻が死んでしまった。
更にブラックマウスは腕で体に付いている甲殻蟲や魔蟻を引っ掻いて剥がす。それで地面に叩きつける。幸い甲殻蟲はその頑丈な体のお陰で死ぬことはないが、魔蟻の方はそうもいかない。打ち所の悪かった魔蟻は悲鳴を上げて動かなくなる。
「虎の子を使うしかないな。」
俺の持つ戦力でもまだ未知数の力を持つクロシア。こいつに掛けるしかない。
「召喚、【狂った力の追求者】」
瞬間、虚空から巨大なアギトを持つ幼虫、クロシアが現れた。
「キィィィ!!!!」
クロシアは俺の命令を待つことなく、ブラックマウスを餌と定めたのか、一直線に直進していく。
そしてクロシアはブラックマウスと接触するやいなやその強靱な顎でブラックマウスの腹を食い破り、体内に侵入していった。
「キューーン!!」
体内を直接食い破られる痛みにブラックマウスは転げ回る。そして、しばらく経った後、動かなくなった。
ブラックマウスの体から這い出てきたクロシアは、一回り大きくなっていた。
「戻れ。」
クロシアは最初と同じように忽然と消える。
「【狂った力の追求者】か。ただの食欲魔獣だろう。」
『まさか私もここまでとは思っていなかったわ。
あの暴れん坊も併せてギリギリ勝てる魔物を探したつもりだったんだけれど。』
魔蟲達の頑張りを馬鹿にするような圧倒的な力でブラックマウスを倒したクロシア。
だが、制御できない力はいつか身を滅ぼす。クロシアを使うのはやはり最後の手段とした方が良さそうだと、俺は結論づけた。