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1話 虫ってなんだよ‥

「どこだ、ここ?」


目を開けるとそこには途方もなく巨大な木が見えた。それもあちこちにだ。


『目を覚ましたのね。』


頭の中に直接声が響いた。声は女性で、俺よりも随分と年上に感じる。

その声に驚き、辺りを見回してみるも誰もいない。

いや、いた。蝶が一匹飛んでいる。


「君なのか?」


蝶に向かって話しかけてみた。もし違ったらさぞ滑稽だと思いながら。


『ええ。これは仮の姿だけれどね。

私は邪神によって創られた、あなたの(しもべ)よ。』


邪神、そうだ。俺はあの爺に何かされたんだ。


「まさか、本当に異世界なのか?」


辺りには信じられない程巨大な木が連なり、草花ですら、俺の背より遥かに高い。異世界と言うに相応しい光景が俺の目の前には広がっている。

爺の言っていることなんて半信半疑だった。しかし、実際にこんな風景を見て体験してしまったら、疑うことなんてできない。あの爺は本物だったらしい。


「随分と草花がでかいな。動物も等しく大きいのか?」


この草花や木に合うサイズの大きさの動物がいるなら俺なんて簡単に食われてしまうだろう。


『そうね。でも動物、というより魔物かしら。

それと、確かにここの木々は大きいけれど、草花はそうでもないわよ。』


どういうことだ?

現にこの横の草は俺よりも高い位置まで生い茂っている。俺の身長は175センチはあったから、この草は2メートルはあるはず。


『自分の体を見てみなさい。』


頭に響く音に従い、自らの体を見てみると、そこには黒い甲殻があった。要は虫の体だ。

そこで別れ際の爺の言葉を思い出す。

『ただし、人のままとは限らんがのう。』

あの言葉はこのことだったのか。


『今のあなたは、あなたの世界の基準から言えば5センチくらいの身長しかないわ。』


「ふざけんな!!」


俺は温厚な人間だった。そんな俺が初めて本気で殺意を覚えた瞬間だ。

当たり前だろう、いきなり拉致されて勝手に異世界に落とされ、その上、虫螻(むしけら)にされたのだから。しかもその理由が道楽の為ときた。

きっと今頃、腹を抱えて笑っているに違いない。


『私に怒鳴られてもねぇ。』


どうする?

このまま死んでやるのも良いかもしれない。爺の道楽として生きるなら、俺自身で道楽を潰してやる。しかし、それも俺の生を弄ばれたようで悔しい。何より、こんなことをした爺に復讐してやりたい。そのためには死ぬわけにはいかない。


なら、どうするか。今の俺は文字通り虫螻だ。どうあがいても邪神なんて存在の爺に勝てる筈がない。


「あの糞爺、俺に力をやるとか言っていたな、それはなんだ?」


こうなったら、あの糞爺の力でも何でもいい。あいつに一泡吹かせられるような力が手に入るなら。


『スキル【魔蟲の創造】と特性【無限進化】、後は【狂った力の追求者】、【美しき魔蝶】の卵が二つね。』


知らない言葉ばかりだ。しかし、強くなれるなら構わない。特に【無限進化】という特性は心惹かれる。今は虫螻でもいずれは邪神を越す力を得られるかもしれない。そんな夢を俺に抱かせてくれる。


「スキルとはなんだ?」


知らないことは聞くしかない。


『スキルは、この世界の特殊な力のこと。行使すれば様々な現象が起きるわ。

例えばあなたの【魔蟲の創造】なら、あなたよりもランクの低い蟲を創造できる。代償として体力を使うから無限には無理だけれどね。もちろん、創造した蟲はあなたが自由に命令できるわ。』


なるほど、つまり物量で攻める訳か。昔、テレビで軍隊アリというアリの生態を見たことがあるが、数というのは力なのだと、思ったものだ。


「どうやったら俺は進化できる?」


いつまでも虫螻でなんていられない。特性に【無限進化】というのがあるくらいだ、進化する方法がこの世界にはあるに違いない。


『この世界にはレベルというのがあるわ。他の生物の命を奪い、それを糧として自らのレベルを上げていくのだけれど、レベルは99までしかなくて、それを越えると、つまりレベル100相当になると次のステージへと進化できるわ。

本当は進化できるのは限られた個体だけなのだけれど、あなたの場合、特性に【無限進化】があるのだからレベルさえ上がれば進化は約束されたようなものね。

あと、【魔蟲の創造】で創られた蟲を殺しても糧とはならないわ。でも蟲が殺したものは半分あなたの糧となるみたい。』


レベルか。今の虫螻から初めていくらの時を経れば邪神級の力を得ることが可能なのだろうか。

いや、焦ってはいけないな。ともかく、今は強くなれる可能性があるだけでも有り難いと思わなければ。

それに蟲を使ってもレベルが上がるのは朗報だ。最悪、俺は戦わなくても勝手にレベルが上がってくれるわけだ。


「最後に、その卵ってのはなんだ?」


『卵は条件を満たせば孵すことができるわ。

【狂った力の追求者】は合成魔蟲(キメラインセクト)と呼ばれる種族で、他者を食べれば食べる程強くなるわよ。この子は既に孵すことができるわね。

【美しき魔蝶】は私の本来の体。今はこんな思念しか飛ばせないけど、本当はグラマラスなお姉さんなんだから。でも残念なことに私の体はまだ条件を満たしてないから孵すことができないみたいだけど。』


「その条件とはなんだ?」


『詳しくは分からないけど多分、あなたが一定以上の強さになればいいんじゃないかしら。』


これで分からないことは大体きいた。もちろんまだ、この世界のことは何も聞いていないから聞きたいことは山ほどある。今はただ、自分のことについて聞いただけだ。

だが、まずこの蝶には言っておかなければいけないことがある。


「俺はおまえの創造主である邪神を殺す気でいる。」


さて、こいつはどんな反応をとるだろうか。仮にも生みの親を殺すと宣言されてどう感じるのだろう。

もしも、それで俺の邪魔をするなら、仕方ない。こいつも俺の敵だということになる。


『構わないわよ。』


しかし、俺の予想は大きく外れて、こいつは軽くそう言った。


『別に私は邪神に忠誠心があるわけでもないし。それに邪神のしたことを考えると正直、赦せないしね。』


こいつの言ったことは嘘偽りかもしれない。俺を油断させて、いざ邪神と対決した時に裏切る可能性だってある。それにもし、この言葉が本当でも、こいつの意志とは関係なく邪神に操られる可能性だってある。


「信じるに足る証拠がないな。それにもし君が俺の味方になったとしても邪神に操られることだってありえないわけじゃない。」


『それは大丈夫よ。この世界に邪神は干渉はできない。だから私を操ることもできないわ。

といっても、この言葉すら嘘と思われたらどうしようもないんだけどね。

後は信じてとしか言えない。』


どうするべきか正直、迷う。だが、こいつの言うことを疑っていては埒があかないのも事実だ。なら、リスクを承知でこいつを信じるしかないだろう。


「俺の名前は雪兎だ。」


『え?』


「これから長い付き合いになるんだ、名前くらい知らないとだろう?」


『ふふ、そうね。私はアリスよ。これからよろしく、ユキト。』


こうして俺は異世界で初めての仲間を得た。












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