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16話 天敵出現

もう少し長めにという要望があったので、長めにしてみました。

「今日は昨日進化した蟲達はあまり無理をせず身体を慣らすことに専念してくれ。」


朝の会議で俺は昨日進化した隊長格の蟲達にそう注意した。というのも、レベルアップとは違って進化をするといきなり巨大な力を得てしまう。その力に溺れ、自分の実力を見誤れば、この森では即死につながる。故に、進化した蟲達には今日はあまり無茶をせず、ゆっくり自分の変化を見つめて欲しい。


「今日の留守番はガンツか。よろしく頼んだぞ。」


『御意。』


《千命足》のガンツは若干不満気に返事を返した。ガンツからしたら未だ進化に至っていないのに、昨日今日と戦いに出れないことが不満なのだろう。

まぁ、こればっかりはローテーションで公平に行っていることだから仕方あるまい。



◇◆◇◆◇


さて、隊長格も進化したことだし、俺も更なる力を求めて強敵に挑むとするか。


会議を終えて、今日も一人巣の外に出る。進化しても相変わらずのファイに小言を言われたがもう慣れたものだ。


「今日は更なる強敵に挑もうと思う。」


という訳でアリスに強敵を探してもらう。


『《剛毛猪》が向こうにいるにはいるけど…。』


アリスの声に不安が混じる。確かに《剛毛猪》は強敵だ。いくら猪類の中では小柄だと言っても俺から見れば怪獣に等しい。この間倒せたのは罠に嵌めたからであって、今のように真っ正面から対峙して勝てるような相手ではない。


「【狂った力の追求者】を出せば最悪なんとかなるだろう?」


剣兎の時も言ったが、俺はあまりクルシアを多様したくはない。だが、切り札としてはやはりクルシアは優秀だ。


『そうね。あの子なら大丈夫でしょうね。』


アリスの了解も得られたので俺達は《剛毛猪》に戦いを挑むことにした。











「予想以上に堅いな。」


俺は今、木の上で姿を見せずに《剛毛猪》と戦っている。もちろん戦っているのは俺の無限蟲達だ。俺本体はいつでも逃げられるようにしてある。


『"剛毛"と名前につくくらいだしね。』


そうなのだ。《剛毛猪》名前に違わない身を覆うその剛毛のせいでこちらの攻撃が殆ど届かない。更に体内に侵入しようとしても、身体に傷が付かない為に侵入できない。俺の麻痺毒も当然ながら《剛毛猪》に届くことはない。対して《剛毛猪》はこちらを敵とも思ってないようで、鬱陶しそうに身体を振って無限蟲を振り払うの繰り返しだ。こちらを小蠅くらいにしか思っていないのだろう。


「これじゃぁ、進化もできないな。」


無限蟲の進化は厳しい環境下に置かれて初めておこる。今のように軽くあしらわれていては進化はできないのだ。





「ブヒーーー!!」


しばらく、めげずに攻撃を続けていると《剛毛猪》もとうとう我慢できなくなったようで、叫び声を上げて走り出した。


「追うぞ!!」


《剛毛猪》にしがみついている無限蟲の目を通して《剛毛猪》の走っている方向は分かるのでそれを追う。

幸い、《剛毛猪》はそう遠くない場所で止まり俺達も追いつくことができた。体格が違うので追うのも一苦労だ。


「湖か?」


猪が立ち止まったところは湖の畔と思われる場所だった。

といっても俺からしたら湖も海も大きさ的には変わらないけれど。

しかし、こんなところに湖があるなんて知らなかった。今度、ここ等一帯を散策した方が良さそうだ。




《剛毛猪》は湖に入り身体を激しく揺さぶる。どうやら無限蟲を洗い流す気らしい。


『まずいわよ。今なら逃げられそうだし逃げた方が良いんじゃない?』


アリスがそう言っている間にも無限蟲は次々に溺れ死んでいく。


「いや、これは寧ろチャンスだ。」


無限蟲は危機的状況になればなるほどそれを乗り越えようと進化していく。そういう意味ではこの状況は好都合な程、"危機的状況"だ。

俺は溺れ死んだ無限蟲の分だけ新しく創造し、猪に向かわせる。

数にして五十を超える無限蟲が溺れ死んだ。


そして、その時は来た。



猪の身体の上にいた無限蟲が脱皮を始めたのだ。

脱皮を完了した個体は水の中を自由に泳げるようになっていた。更に無限蟲は明確なる"力"をこの戦いで得た。


『進化したみたいだけど、勝てそう?』


不安そうにきいてくるアリス。この進化でまだ勝てないというなら確かにお手上げだ。

しかし、今の俺には猪がひどく弱い生物に見える。


「楽勝だよ。」


無限蟲達の五感を通して操り、《剛毛猪》に噛みつかせる。十匹全員が猪に纏わりついたのを確認してから無限蟲の身体を振るわせる。身体に段々と力が漲っていくのが分かる。


―いけ!!


次の瞬間《剛毛猪》に雷が落ちた。

《剛毛猪》は手足を痺らせそして溺れ死んだ。




『…今のは?』


「無限蟲達が体内に発電機能を得たんだよ。もちろん本当の雷に比べたら微々たるものだし、今のだって猪に電気を流して手足の自由を奪い、溺れさせただけだ。」


ようは電気鰻みたいなものである。


『でも水中だと強過ぎる力ね。』


「しかし、死体が回収しきれないのが痛いな。」


猪は死んだはいいが水の中。無限蟲に運ばせるには限界があるし、かといって他の魔蟲達では溺れ死んでしまう。

仕方ないので俺達の腹を満たす分だけを水中から回収させることにした。


「美味いなぁ。」


さすがは豚に近い猪。味も美味しい。

まぁ、虫肉も美味しいけど動物の肉も良い。


肉を食った後、一度戻ることにした。ここでうろうろして迷子になるのも馬鹿らしいし。アリスに聞けば道はわかるのだが、それも情けない。








『蟻の巣よ。』


それは湖からもときた道を戻る途中のことだった。アリスの言う方向には確かに蟻の巣があった。

巣から出てくる蟻は俺の創造する魔蟻よりは明らかに小さい。この蟻は俺達の周りでは見かけないことからどうやらこの辺りの生態系は俺達のものとは随分違うらしい。


『あれは《赤蟻(レッドアント)》ね。魔蟻よりも劣る種族で私達の敵ではないわ。』


なら滅ぼしてしまおうか。この森に蟲の群は二つもいらないし。

そう思って赤蟻の巣を眺めていると悠然と赤蟻の巣に近付いていく獣が目に入った。


「なんだ、あれ?」


巣に近付いていったのは穴熊のような体型をした魔物だった。大きさは先程倒した《剛毛猪》よりも尚巨大で元の世界の大型犬くらいはありそうだ。


『《虫喰らい(インセクトイーター)》よ。』


《虫喰らい(インセクトイーター)》か。名前からしてお友達にはなれそうもないな。


《虫喰らい》は赤蟻の巣に近づくと、口を開け舌を巣に入れた。驚くことに舌は一本ではなく細い舌が何百もあり、それらが次々と赤蟻を巻き取っては巣から引っ張り出し、獲物を口へと運んでいく。何千という赤蟻達が見る見るうちに《虫喰らい》の口に放り込まれていく。赤蟻達も必死の抵抗を見せるが《虫喰らい》には全く効いていない。そしてとうとう女王蟻だと思われる一際大きな赤蟻を飲みこむと来たときと同じく悠然と立ち去っていった。

幸い、立ち去った方向は俺達の巣がある方向とは別だったが、これが俺達にとって大きすぎる脅威なのは間違いない。


「あれはヤバいだろ。」


襲われたのが赤蟻の巣ではなく俺達の巣であり、尚且つ俺が巣にいない時であったら、おそらく俺達の巣もこの赤蟻達同様、壊滅していた筈だ。


『正に天敵って感じね。でも、生活区域が違うみたいだし、しばらくは大丈夫じゃないかしら。』


アリスが大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう。しかし、それも"しばらく"の間だけ、束の間の安全に過ぎない。俺達は早急に強くなる必要がある。天敵の存在を知り、俺はそれを強く感じた。




それから俺は何かに追われるかのように魔物を狩った。


―焦っている


それは俺自身よく分かっている。《虫喰らい》を間近で見てしまった為に俺は臆病になっていた。今まで俺が築き上げたものが壊されてしまいそうで怖くて仕方なかった。


『ユキト!!』


「!?」


アリスが俺を怒鳴る。今までアリスに怒鳴られたことなど無い俺は驚いた。


『無茶し過ぎよ。』


あれから俺は一旦、湖に戻り、水辺に来た大きめな魔物を無心で狩り続けていた。

倒した獲物を詳しく覚えてはいない。蛙のような奴もいた気がするし、鳥のような奴もいた気がする。


「強くなる為だ。何が悪い?」


そうだ。俺はあの《虫喰らい》なんかに負ける訳にはいかない。そのためには強くならなきゃいけないんだ。


―もっともっと強く!!


『悪くはないわ。でも今のあなたは生き急いでいるようにしか見えない。』


「怖いんだ。どうしようもなく。」


アリスには正直に胸の内を話すことにした。今までずっと一緒にいてくれた相棒だからな。


『その恐怖は蟲としての性よ。あなたの感情ではないわ。蟲に心を喰われては駄目よ。』


「……蟲としての性?」


『そうよ。《虫喰らい》という天敵を見て、蟲としての本能があなたの心を蝕んでいるの。』


蟲としての本能。この身の内から溢れ出すような恐怖心はそれが原因なのか?


「だとしたら、俺はどうすればいい?」


『気持ちを強く持ちなさい。あなたの魂は決して蟲には負けないわ。』


魂と。また抽象的な話だ。


『邪神に勝ちたいんでしょ?

ならあんな穴熊ごとき乗り越えて見せなさい!!』




――穴熊ごとき、か。


言ってくれる。だが、確かに俺の目標は邪神であってこんな、それこそ"穴熊ごとき"に負けるわけにはいかないな。


「そうだな。俺はこんなところで震えているわけにはいかないんだったな。」


アリスに感謝を伝え、俺は再び狩りに戻る。今度は自分を見失わないように。




◇◆◇◆◇



『頑張ったわね。』


俺達はしばらく戦い続けて巣に戻ってきた。無理はしない。しかし、《虫喰らい》を狩る為には強くならなければならないのも事実。無理をしない程度で頑張らなければいけない。


俺のレベルも今日でかなり上がった。


《雪兎》

Lv:32

種族:邪毒蟲


特性【無限進化】【蟲を統べる者】【肥大化】


スキル【魔蟲の創造】【麻痺毒生成】【階級付与】【思考分割】


創造可能種

《魔蟻》

《兵隊魔蟻》

《酸魔蟻》

《甲殻蟲》

《角殻蟲》

《建築魔蟻》

《雌魔蟲》

《無限蟲》



レベルは今日だけで12も上がっている。スキルも新しく【思考分割】というのが増えた。

スキル【思考分割】はその名の通り思考を分割することを可能とするスキルだ。これで俺は操ることのできる無限蟲の数と精度が格段に上がった。今はまだ分割できる思考は二十だが、これもレベルが上がれば更に増えるようだ。

それに【思考分割】のおかげで俺は一人につき一匹の無限蟲を操ることができる。そのおかげで一匹一匹の反射神経や動きが飛躍的に上昇したのだ。


「これでもまだ《虫喰らい》には勝てそうにないな。」


『大丈夫よ、ユキトなら。あなたに限界は無いのだから。いつかは勝てるわよ。

それと、無限蟲のステータスを作ってみたわ。』



《無限蟲》

Lv:32

種族:無限蟲


特性【無限進化】【創造主の僕】


スキル【甲殻化】【油滑液生成】【水生化】【電気生成】



無限蟲に関しては感覚的に全て分かるのだが視覚化されると整理される気がするのでこれは助かる。


「俺はもっと強くなる。」


『もちろんよ。』


その為には群の強化も欠かせない。


《命の木》、そろそろ挑む時が来たようだ。









成虫になった蟲視点で今度、巣を書いてみようかなとも思っています。

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