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15話 隊長格の進化

「……なんだこれ?」


呆然とする俺。


今日は繭となった隊長三匹を守る為に巣にこもっていた訳だが、《鈴音の癒蟲》のリリーが俺の部屋に来て、ゴミ捨て部屋に変な花が咲いていると言われたので急いでゴミ捨て部屋に行ってみると、そこにはリリーの言う通り、巨大な花が咲いていた。

地面にも深く根を張っており、生命力の高さが伺える。

そもそもここは光の届かない地下だ。にも関わらずここまで大きくなれるものなのか。


「アリス、なんだこれは?」


『《肉食花の(クイーンラフレシア)》よ。多分、《肉食花(ラフレシア)》の死骸がいくつも絡まって生まれたのね。』


《肉食花の(クイーンラフレシア)》はその名の通り、《肉食花(ラフレシア)》を生み出す魔物らしい。しかし、幸いなことにこの《肉食花の母》自身には移動能力も攻撃能力も無いそうだ。


「あの実が《肉食花》になるわけか。」


《肉食花の母》は大きな実をいくつもつけている。少なくとも五十はありそうだ。おそらく、あれらが成長すると《肉食花》になるのだろう。

それにしても驚くべき成長力だ。リリーが言うには昨日の時点ではこのゴミ捨て部屋はいつもと変わりなかったというのだからこの《肉食花の母》は一晩でここまで大きくなったことになる。


『《命の木》の周辺にはこの《肉食花の母》が多く生息しているわ。』


だから、あの近くは植物系の魔物が数多く生息しているのか。きっとプラネシアなどを生み出す花もあるに違いない。


『今のうちに刈り取ります?』


リリーがそう提案してきた。確かに今の内なら安全にこの《肉食花の母》を倒すことができる。

しかし…


「アリス、この実って食えるのか?」


『食べられるわよ。まだ《肉食花》になる前の状態だから栄養価は高いわね。』


なら決定だ。


「この《肉食花の母》は俺達で飼うことにする。」


日に日に危うくなりつつある食糧問題。これで少しは改善されるはず。


『でも、あくまでこれも魔物よ。油断しない方が良いわ。』


「分かってる。」


分かっていて尚、俺はこの花を飼うこと決めたのだ。

とりあえず、この実はある程度大きくなったら魔蟻達に即回収させることにする。巣の中が《肉食花》で溢れたら大変だからな。

ほかにも、あまりにも《肉食花の母》の成長速度が早いので、魔蟻達に頻繁に枝や葉を切らせる。

役割をしっかり魔蟻に割り振り、一応はこの《肉食花の母》の一件は終わりを迎えた。それでも不安なことは不安なので、無限蟲を一匹見張りとしてゴミ捨て部屋に残しておく。これで何があっても真っ先に気がつくことができる。

ゴミは今まで通り、この部屋に捨てさせる。そうすれば肥やしにもなって一石二鳥だろう。



◇◆◇◆◇




『そろそろ三匹が繭から孵るわよ。』


今日は突如現れた《肉食花の母》以外には特に問題は無かった。俺も蟲達も久々の休暇を満喫できたに違いない。


「分かった。」


隊長格の蟲を集め、三匹のところにいく。

繭部屋に到達する。まだ三匹は繭のままだ。




「始まった。」


繭にひびが入り、中から長い足が繭を突き破って現れた。おそらく《氷結蜘蛛》のユラだろう。


『ユキト様。』


「調子はどうだ、ユラ?」


『力が漲るようでありんすなぁ。』


ユラの大きさは《氷結蜘蛛》の時よりも一回り大きくなっており、今の俺の五倍近くはある。姿は《氷結蜘蛛》の時と大差ないが、足が氷の鎧で覆われている。


『これは《白銀鎧蜘蛛(しろがねのよろいぐも)》の亜種ね。蜘蛛種の中でも珍しい種類よ。しかも亜種だから氷を操ることもできるわ。』


亜種とは、自然の力を操れる特別な個体のことで魔法とは違うが、力を操れるようになるらしい。

分かり難いが、《氷結蜘蛛》は亜種ではないそうだ。《氷結蜘蛛》は氷糸を吐けるだけらしい。亜種になったユラはもっと自由に氷を操れる。そのへんは今後調べていけばいいか。

ともかく、ユラは相当に珍しい種類の蟲に進化したようだ。


次に繭を突き破った、いや切り裂いて現れたのは《騎士魔蟻》だったファイ。

ファイも《騎士魔蟻》の時よりも身体が大きくなっている。その大きさは今の俺の三倍ほどだ。姿は《騎士魔蟻》の時の原型を殆ど留めてはいるが、一際目を惹くのは胴体部分から生える二本の刀だろう。腕のような関節で胴体に繋がるその二本の刀は自在に動かすことができるようで、繭を切り裂いたのもこの刀だ。尻尾のランスも顕在なので三つの武器を持つことになる。


『我が主。』


「強くなったようだな。」


『我が主を守る力にございます。』


ファイの心配性は治らなかったらしい。寧ろこれも進化している気がする。


『ファイは《二刀侍魔蟻》になったようね。』


ファイは騎士から侍になったらしい。確かに、《騎士魔蟻》に比べて甲殻が薄い気がする。おそらく動きやすさを重視した為だろう。




最後に繭から現れたのは《兵隊魔蟻》だったカゲツ。カゲツは大きさも姿も殆ど変わっていない。


ただ、一点、翅があることを除いて。


「蜂か?」


『いえこの子は《斬翅魔蟻》、蟻種よ。

まぁ、蜂と蟻なんて近縁だから殆ど変わりないけど毒針は持ってないわ。』


残念、毒は無いのか。しかし、飛ぶことができるというだけで十分なアドバンテージだ。


「俺達、蟲の中では唯一の飛べる戦闘要員だ。期待してるぞ。」


《鈴音の癒蟲》も飛べることは飛べるが、あれは戦闘要員ではないので除外する。


『はっ!!』


《斬翅魔蟻》となったカゲツは【チーム軍隊蟻】では真価を発揮できないだろう。まだ飛べる蟲がカゲツしかいないから無理だが、そのうち【チーム軍隊蟻】は解散、または新しく飛行専門のチームを作ってカゲツにはそこのリーダーを勤めて貰うことになるだろう。


これで三匹全てが進化したわけだ。

三匹には昨日できなかった【肥大化】の説明をした。




隊長格が全員揃った夜の会議の場で《肉食花の母》の発生とその利用による食糧問題の改善を蟲達に話した。


『確かに食糧問題は深刻ですが、リスクが大きすぎるのでは?』


そう言うのは心配性のファイ。まぁ、今回に至っては真っ当な意見である。


「もちろん、本当に危険だと判断したら倒すさ。今は無限蟲に監視させているから《肉食花の母》が何か変な動きをすればすぐに分かる。」


『まぁ、それならいいんじゃねぇか?』


《砲台魔蟻》のギーグが発言する。


『そうですわね、私も随時気にかけるようにしておきます。』


巣にいることの多い《鈴音の癒蟲》のリリーが見回ると言うのでファイも渋々ながらに反論を取りやめた。会議はそれ以上の議題が上がらなかったので終わりとなった。


「今日はこれにて解散。明日の皆の頑張りに期待する。」


進化した蟲達の成果は明日の狩りで分かるだろう。

まだ、《斬翅魔蟻》の部隊は作れていないがそれも追々どうにかしなければならない。
























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