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10話 大きな変化

テストで更新できませんでした(泣)


下さった感想は明日、返信します。

「前列下がれ。」


俺達は植物魔物とあれからずっと戦い続けていた。

長時間の戦いでは蟲達の体力が尽きてしまうので、今は円形の陣を組んでいる。円陣の中の蟲達は、休ませたり、《鈴音の癒蟲(ヒーリングインセクト)》のリリーが傷を癒やしたりしている。食糧も植物魔物の死体を《氷結蜘蛛(アイスタランチュラ)》のユラが氷糸で周りから掬い上げて集めてくれているので問題ない。


植物魔物の肉は当たり前だが、野菜の味がした。

だが、プラネシアの花には甘味があり、かなり美味しかった。


植物魔物の肉で養分を補給し、体力を回復させた蟲を今頑張ってくれている前線の蟲と交代させる。

蟲の基本陣形は、一番外側に魔蟻、兵隊魔蟻、甲殻蟲、二列目に角殻蟲 、三列目に酸魔蟻、一番内側に俺と休んでいる蟲達という形になっている。

一番外側の蟲達は植物魔物の攻撃を体を張って止める役。二番目の角殻蟲は一番外の蟲の隙間から植物魔物に角を刺し、一度内側に戻ってから再び植物魔物を刺すということを繰り返す役で、いざという時は壁役にもなる。三列目の酸魔蟻は頭上から降ってくるシルジアを迎撃し、余裕があれば外の植物魔物に酸を飛ばす役としてそれぞれ機能していて、疲れたり、怪我をした蟲は一度内側に戻り回復してから再び前線に立つということを、ずっと続けている。また、一番外側を担当する蟲達は二班に分け、戦う班と休む班を時間ごとに交代させている。




『後ろから《食肉花(ラフレシア)》が来るわ。』


食肉花(ラフレシア)》とは低確率で出現するプラネシアの上位種だ。一時間に一回くらいは現れていて、その大きさはプラネシアの二倍つまり、俺の四倍はあり、厄介な麻痺効果のある花粉を顔のようにも見える花の部分から放出してくる。普通の蟲では対処に困るような強力な魔物だ。


「カゲツ、ファイ、ギーグ、ガンツ、頼んだぞ。」


《兵隊魔蟻》のカゲツ、《騎士魔蟻(ナイトアント)》のファイ、《砲台魔蟻》のギーグ、《千命足(ムガンデ)》のガンツに《食肉花(ラフレシア)》を任す。進化した個体であるこいつらなら《食肉花(ラフレシア)》単体くらいは余裕で倒せる。

因みに、《氷結蜘蛛(アイスタランチュラ)》のユラと《鈴音の癒蟲(ヒーリングインセクト)》のリリーはお留守番だ。リリーは戦闘力に乏しいので当然だが、ユラは俺の護衛として万が一の時の為に残しておいている。


食肉花(ラフレシア)》はまだ最前列に到達していない。というのも周りのプラネシアが邪魔して進めないのだ。


「ガンツ、今回もよろしく。」


『オ任セ下サイ。』


千命足(ムガンデ)》であるガンツの体はとにかく長い。

生まれたばかりの時は15センチ程だったのが今では40センチはある。この戦いで成長したのだ。

そんなガンツはカゲツ、ファイ、ギーグを乗せる、というよりしがみつかせると、一度体を縮めた後、大きく伸ばしてその反動で《食肉花(ラフレシア)》の所まで跳んでいった。


食肉花(ラフレシア)》の蔦攻撃や麻痺花粉などを最前列の蟲達のところでやられると無駄に被害が出るので、《食肉花(ラフレシア)》が近付く前に少数精鋭で倒すことにしている。

一番最初に闘った時は前線が崩れかけて冷や汗をかいたものだ。


一気に《食肉花(ラフレシア)》の足元に到達したガンツ達はすぐに戦闘態勢に入った。

まず、ギーグが二つの尻尾から酸を飛ばし、《食肉花(ラフレシア)》の花を潰す。これで《食肉花(ラフレシア)》は麻痺花粉を飛ばさなくなる。

おそらく、花が麻痺花粉を飛ばす役割をしているのだろう。

ガンツは体を捻らせてから《食肉花(ラフレシア)》に噛みつき、一気に体を回転させることで、《食肉花(ラフレシア)》の肉を引きちぎる。

更に、剥き出しになった柔らかな肉にカゲツが食らいつき、体内に浸食していく。

ファイは《食肉花(ラフレシア)》の蔦による攻撃を尻尾のランスではじき、守備に努める。


そして、四匹の連携の前に《食肉花(ラフレシア)》はあっけなく倒された。

四匹は植物魔物に囲まれる前にガンツに乗って再び陣の中央に跳んできた。


「お疲れさん。」


四匹を陣の中央に待機させ、戦況を眺める。

陣形が崩れた場所があれば名前持ちの進化個体を臨機応変に向かわせ、態勢を立て直させ、堅実に植物魔物を倒していく。たまに現れる《食肉花(ラフレシア)》は名前持ちで対処する。そんな戦いが長いこと続いた。



『ユキト、レベルが99になったわよ。』


半日ほど経ってアリスがそう俺に告げた。


ステータスを見る暇が無かったから気がつかなかったが、もうそんなにレベルが上がったらしい。


「進化ってのは、レベル100になった瞬間に始まるのか?」


もしそうなら危ない。この状況で俺が無防備な繭なんかになったら確実に死んでしまう。


『いいえ、進化の開始は任意で決められるわ。』


良かった、最悪の事態にはならなくて済みそうだ。

なら、レベルが100になったら今日は切り上げるとしよう。

半日ほど戦って思ったが、植物魔物を殲滅させるのは不可能だ。《命の木》の力かは知らないが、湧いてくる植物魔物の途切れる気配がしない。






『100になったわ。』


レベルが99になってから二時間ほど戦い続けてようやく100になった。高レベルになればなるほどレベルは上がりにくくなるから仕方無いのだが、それにしても長く感じた二時間だった。


「今の陣形を保ちつつ、退却する!!」


ゆっくりと後退していく蟲達。

しかし、円形の陣のまま進むとどうしても進行方向にいる蟲達の負担が大きくなってしまうので、ガンツとカゲツ、ファイを向かわせ負担の縮小と、進行速度の向上をはかる。


そしてなんとか植物の森を抜け出した俺達は疲れている体に鞭打って巣に帰っていった。









巣に帰ると、食事配給を任せた魔蟻達が飯となる魔物の肉を持ってきてくれた。これは疲れ切っている俺や蟲達にはありがたい。


食事をしながら、辺りを見回して思う。今日一日で俺も含め、多くの蟲が成長したなと。

これなら、俺以外にも進化できるようになった蟲も多そうだ。





「俺はこれから進化に入る。」


食事が終わった後、俺は巣の出口を埋め、外からはこの場所が分からないようにした。そして、繭部屋まで全ての蟲達を引き連れてやってきた。


「俺が目覚めるまで皆、俺を全力で守れ。」


アリスが言うには俺が繭から孵るのは他の蟲の時と同じく明日の夜になるらしい。それまで俺は究極に無防備になる。だから、配下の蟲達を周りに侍らせ、最大限に警戒させることにした。

俺以外にも進化する蟲が20匹ほどいるのでそいつらもついでに守らせる。



何度か周りを確認してから覚悟を決め、進化することを受け入れると、体が自然と動き、糸を頭上に吐き出して繭となった。

繭となり、視界が真っ暗になったところで俺の意識も途絶えた。








『おはよう。』


長い眠りから覚めた俺の視界に最初に入ってきたのは黒い蝶、つまりアリスだった。


「よく寝たよ。」


もう一日経ったのか。俺からしたら寝て起きた感覚でしかないんだが。


『体の調子はどう?』


そうだ、進化したのだから何かしらの変化があるはずだ。

視線の高さは変わらないから大きさに変化はないようだ。

自分の姿を見てみる。蠍のような尻尾が生えたこと意外は大して変わっていないように見える。


「そんなに進化した感はないな。」


進化すれば、もっと大きくなったり極端に体の構造が変わったりするものだと思っていたから、なんだが拍子抜けだ。


『でも、ステータスは随分と変化したみたいよ。』


アリスがそう言ってステータスを出現させた。


《雪兎》

Lv:1

種族:邪毒蟲


特性【無限進化】【蟲を統べる者】


スキル【魔蟲の創造】【麻痺毒生成】【階級付与】


創造可能種

《魔蟻》

《兵隊魔蟻》

《酸魔蟻》

《甲殻蟲》

《角殻蟲》

《建築魔蟻》

《雌魔蟲》

《無限蟲》



新しい称号が一つ、スキルが二つ、創造可能になった蟲が二匹、確かに随分と増えたものだ。


称号【蟲を統べる者】とスキル【麻痺毒生成】というのは名前だけで大体想像がつくが、スキル【階級付与】というのはよくわからない。蟲の格とかそういうものだろうか?


「増えた称号とスキルを詳しく説明してくれ。」


『【蟲を統べる者】は蟲の群れの主になったという証ね。で、【麻痺毒生成】は神経毒を生成することができるようになるスキルよ。』


これらは俺の想像していたものと大して違わないようだ。


『【階級付与】は蟲達に階級を与えることができるスキルで今のところ階級《隊長》を付与できるわ。

ただし、階級を付与できる蟲には条件があって、ユキトに心から忠誠を誓っている蟲で尚且つ特別な地位にいる蟲に限られるみたいね。』


正直、意味が分からん。これは実際に使って確かめた方が早いだろう。

新たに創れるようになった蟲の能力も実際に創造してみないと分からないし。


というわけで、早速スキル【階級付与】を使うことにしてみた。

付与するのは《氷結蜘蛛(アイスタランチュラ)》のユラさん。理由は蟲の中では最も長く俺に尽くしてくれていて、尚且つ進化もしているから。


『オ呼ビデショウカ』


「ちょっと、そこで座ってろ。

スキル【階級付与】。」


ユラの体が光りだし、しばらく後、収まった。光が消えた後ユラの体には刺青が走っていた。


「なんか変わったところはあるか?」


『頭がすっきりしたように思います。』


「…なるほど。」


どうやら知能が大幅に上がったらしい。今まで片言で聞き取り難かった念話がスムーズになっている。


「アリス、他に【階級付与】による効果はあるのか?」


『普通の蟲よりも平均的に能力が高くなるわ。

あと、《隊長》を付与された蟲は自分の隊に所属する蟲が得た経験値を得られるわ。丁度ユキトみたいにね。

因みに蟲が得た経験値の内分けは蟲:隊長:ユキトで3:2:5になるみたい。』


つまり、強い蟲はより強くなるわけだ。正に格差社会。まぁ、階級を分けたわけだから当然と言えば当然なんだろうけどさ。


『私はどうすれば?』


ユラが困ったように訊ねてくる。今まで感情なんて見せなかった蟲からしたら凄い変化だ。


「もう戻っていい。」


これで【階級付与】の効果は大体分かった。

隊長になった蟲の専属隊も作らなければいけないだろうが、それはとりあえず後回しで、次は新しい蟲の能力を確認することにした。


「創造、種族は《雌魔蟲》、数は一。」


現れたのは腹が極端に大きな魔蟻だ。


「こいつの能力は分かるか?」


『ええ。《雌魔蟲》は生殖能力を保持した蟲で他の蟲の遺伝子を得ることでその蟲の卵を産むことができるわ。

この卵は【狂った力の追求者】の時とは違って放っておけば勝手に孵化するわね。』


とすると、【魔蟲の創造】と効果が被るな。


「利点はなんだ?」


『一つは卵から産まれ、幼虫を経て生まれる蟲は知能や能力が【魔蟲の創造】で創り出された蟲よりも高いこと。もう一つは【魔蟲の創造】では創れない進化後の個体もこれで増やすことができること、かしらね。』


つまり、卵を孵化させて質を取るか、【魔蟲の創造】で量を取るかの選択というわけだ。時と場合でどちらの方が良いかは変わるだろうが、選択肢が増えるというのは素直にありがたい。


更に《雌魔蟲》を四匹創造して合計五匹にし、それを蟻種、甲殻種、蜘蛛種、百足種、儚蟲種、にあてがわせた。

ここで言う"種"というのは蟲を大きく分けた括りのことで、"蟻種"とは魔蟻や兵隊魔蟻、酸魔蟻といった蟲のことだ。"甲殻種"は甲殻蟲や角殻蟲。"蜘蛛種"は今は《氷結蜘蛛(アイスタランチュラ)》のユラしかいない。"百足種"も《千命足(ムガンデ)》のガンツしかいないし、"儚蟲種"も《鈴音の癒蟲(ヒーリングインセクト)》のリリーしかいない。


何でいきなりこんな区分を設けたかというと、《雌魔蟲》の産む卵が"種"のものになるからだ。例えば魔蟻の卵を《雌魔蟲》が産むと生まれてくる蟲は魔蟻の可能性もあれば酸魔蟻の可能性もあるとそういうことだ。

もちろん、全てアリス情報である。


尚、蟲の遺伝子を得るのに《雌魔蟲》は対象の蟲の体の一部を食べればいいらしい。性交は必要ないとのこと。

蟲の性交なんて余り見たくないので少しホットした。


遺伝子確保時に一部を食べられた蟲もリリーに治させればいいので、特に問題はない。





「となると、新しく卵部屋と幼虫部屋も必要になってくるか。」


だが、それも今は後回しだ。最後の蟲の能力を確認してからやることにしよう。


「創造、種族は《無限蟲》、数は一。」



《無限蟲》が現れた瞬間、俺はその蟲の全てを理解した。


『最初に言っておくけれどこの蟲のことは私も分からないわよ。

本当なら【魔蟲の創造】で創られる蟲は全て分かる筈なのだけれどね。』


「問題ない。

この蟲は俺自身だ。」


『どういうこと?』


アリスが疑問に思うのも無理はない。俺だってどういうことか完全に理解した訳ではないのだから。

ただ、この魔蟻と同じくらいの大きさの蟻の形をした蟲が俺自身、正確には俺の分身だということは分かる。この蟲を創造した瞬間から俺の五感はこの蟲とリンクしている。俺の意思で《無限蟲》は動かすことができるのだ。

つまりこの《無限蟲》は俺の武器なのだ。

しかも、《無限蟲》は全体で一つという性質を持っている。《無限蟲》は群れで一つの個体。だから経験値もレベルも全て共有する。一匹が死んでも群れ全体からすれば何の痛手でもない。

これらのことが俺には自然と理解できた。おそらくこの蟲が俺の分身だからなのだろう。


『それはまた凄まじい蟲ね。』


俺が《無限蟲》の説明をするとアリスは素直に驚いていた。


『もしかしたら【魔蟲の創造】はその《無限蟲》を造る為のスキルだったのかもしれないわね。』


アリスの言うことは極論気味に感じたが、あながち間違えではないのかもしれない。それほどに俺もこの《無限蟲》に運命じみた何かを感じている。


ただ、一つだけ言いたいことがある。


なんで武器まで蟲なんだよ!?

俺だって伝説の剣とか使いたかったわ!!


「まぁ、とりあえずこれで俺も守られるだけの存在では無くなったわけだ。」


今まで俺の護衛に回していた蟲もこれで積極的に戦闘に参加させることができる。


「戻れ。」


感覚的な言い方になってしまうが《無限蟲》は他の蟲と違って俺の中に戻すことができる。収納と言い換えてもいいかもしれない。


利点の多いこの《無限蟲》だが、今は十匹しか操ることはできない。というのも五感をリンクさせて操るのが俺の能力的に十匹が限界なのだ。レベルが上がっていけばその限りではないのかもしれないが、少なくとも今はそれが限界だ。



「やることが満載だな。」


今回の俺の進化で俺達、蟲の在り方は大きく変わる。そんな予感を俺は感じていた。



















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