プロローグ
目を覚ますと、よく分からない部屋にいた。
「気がついたか?」
声のする方を向く。そこには爺さんが椅子に座っていた。
「なんだ、お前。」
「儂は邪神じゃよ。」
知らない爺は自らを邪神と言う。
確かに仙人のように見えなくも無い。しかし、邪神と言われて納得できる訳もない。
「信じなくてもよい。じゃが、儂は嘘を言ってはおらんよ。」
「ここはどこだ?」
正直、爺が邪神か否かなんて俺にはどうでも良かった。爺が邪神だと言い張るならそれでも構わない。適当に話を合わせるだけだ。
重要なのは、ここはどこで、俺はどうなるのか、ということだ。何せ、この爺の目的がさっぱり分からないのだから。
そもそもで俺は何でこんなところにいる?
たしか、俺は自分の部屋で眠っていたはずだが。
「困惑しておるのう。
まずはここはどこか、という問いの答えじゃが、ここは精神世界じゃ。つまりは魂のみの世界じゃ。」
意味がわからない。精神世界?
いよいよ、この爺の正気を疑う。自分を邪神とか言っている奴が正常なわけはないが、それはあくまで自称だ。自分で勝手に思っていてくれれば俺に害はない。しかし、世界まで爺の妄想に引き込むのは止めて欲しいものだ。
「お主、割と容赦ないのう。まぁ、良い。後で後悔するのは主じゃし。」
「声に出していたか?」
口を動かしたつもりはない。にもかかわらず、爺はまるで俺の考えが分かるかのように話してきた。
「邪神じゃからのう。人の考えを読むくらい造作もないわい。」
偶然?
いや、それで片付けるのは危険か。だが、この爺が邪神だなんてことを信じるのもありえない。まだ、そういう超能力を持っていると言われた方が信じる気にもなる。
「目的はなんだ?」
爺が邪神か否かは今は保留にする。俺には判断がつかないし、それよりも爺の目的の方が気になる。
「道楽じゃよ。長い月日を生きると退屈でのう。じゃから、主を異世界に飛ばしてみることにしたんじゃ。」
異世界と言ったか、この爺は。しかも俺をそこに飛ばすと。もう言っていることが荒唐無稽すぎてついていけない。しかし、それを馬鹿げていると無視するのも危険だと俺の本能が告げている。
「安心せい、主が死なんように力も持たせてやるわい。じゃから、安心して行ってこい。」
瞬間、足下に大きな穴が開き、俺は落ちていった。
「ただし、人のままとは限らんがのう。」
最後に不吉な言葉を聞いて。