第四話
むぅ。いかん。
強くあたりすぎたか。
彼女を派手に転ばせてしまったのを見て、俺は内心焦っていた。
しかし、クールで良い先輩と先ほど決めた設定で彼女に認識させるため、俺は紳士的に振舞った。
「大丈夫ですか?」
あ、しまった。声が上ずった。
「……っあ、大丈夫です! すみません……前見てなくて……」
俺によってダイナミックなパンチラを入学早々決めた後輩は、前髪を分けながら上目遣いに俺を見た。
「思っていたより可愛い声で、整った容姿じゃねえか」
ぼそっとそうこぼすと、怪訝な目で見られた
「……なん、ですか? 」
おっと、なんか言わなくては
「こほん。」
と、照れ隠しに咳払いをしてから俺は、
「綺麗な足だね!あ、いや…違っ…お、俺は大丈夫だよ!? 一年生? その荷物どうしたの? 運ぶの、手伝ってあげようか? 」
などと、手を差し出し、当たり障りのない普通の受け答えをした。
一瞬顔が曇った気がしたが、すぐに晴れて
「あ、いえ!! ……私は、大丈夫です」
俺の手を見ながら、顔の目の前で後輩は両手をブンブンと振った
「そうかそうか……」
(なんか言わなくちゃなんか言わなくちゃ。なんか、なんか気の利いたことを……)
「……なら俺はこれで」
と口ごもり、出した手を挙動不審に引っ込めて、そのまま立ち去ろうと腰をあげてしまった。
(なにやってんだ俺!? 違うだろ、そこは無理にでも荷物をもってあげてだな…)
心の中で俺が叫ぶが、いつもこんなもんだろと返し、新しい出会いを諦めようと、歩み始める。
(ばいばい、俺の新春……)
するといきなり、ぐいっと学ランのすそが引っ張られて腹が締まった。
「おえふっ!」
思いがけない奇襲に、情けない声を出してしまい、同時に軽く吐き気が襲ってきた
「先輩……ない…」
しばらく事情も飲み込めず、
(……なんだ? ない? いかないで?なんにせよ、お帰り俺の新春!!)
「どうした?」
とクール設定を今一度、着直し、振り返る
「先輩……」
「ん?」
「…立て、ない……」
スカートを抑えながら、上目遣いで俺を見る後輩がそこにいた。
(おお、お、落ち着け俺!こんなとき、なんて……?…ええい!ままよ!)
光の速さでしゃがみ、後輩に背中を見せ、手をピーンと体に沿わせた
プルプルと笑う膝。なぜ爪先立ちだし、俺。
周りの人から見れば、まるで、飛び立ちたいのに飛び立てないアヒルの子のような何がしたいのかよく分からない間抜けな格好をしていることだろう
更に、
ビリッ
俺もう無理だわ、みてられんねーわと、ズボンが職務放棄する
そして、ガラガラと崩れていくクールキャラ。
(……それでも行くのか、俺の新春よ。)
春に、もう一度別れを告げ
ゆっくり振り返り
「……乗る?」
と、涙目で彼女にお願いしてみた。